では、どうすればいいのか。個々人の最適な睡眠時間については、4~5時間の短時間睡眠を続けないほうが良いことは確かだ。三島さんは、「短時間の睡眠法は、仕事がどうしても立て込んでいる数日間だけなど、期間限定のテクニックと解釈すべき」と警告する。睡眠不足は健康に悪影響を与え、最終的には死亡リスクも上げる。興味深いのは寝過ぎでも死亡リスクが上がってしまうということだ。111万人以上を対象にした米国の大規模調査では、死亡リスクは7時間前後眠っている人が最も低く、それより睡眠時間が短くても長くても高くなる結果となった。日本人を対象にした調査でも、同様の傾向が示されている。

体を壊さなかった人が最後には勝つ

いずれにしても、睡眠と健康には密接なつながりがあることが、近年の研究や調査によって明らかになってきている。それでも会社で出世するためには睡眠を削るしかないと考えている人に、内山教授のアドバイスをお伝えしておこう。

「会社の同期に優秀な人が何人かいて、その中から一人がトップとして残る。それはどういう人かと言うと、体を壊さなかった人なのです。30代、40代に睡眠を削って無理をしてきた人は、50代になって体を壊し、結局は出世競争から脱落することが多い。年配の社長さんが『寝ずに頑張った』などと、若い頃の武勇伝を披露することがありますが、本当のところは寝ない日もあれば、ちゃんと休んでいる日もあったはず。でなければ、年を取っても元気ではいられないと思います」

睡眠をおろそかにすると出世にも響くということか。できるビジネスパーソンは、眠りのツケをためてはいけない。

※注1 Nature. VOL388.17.July.1997

三島 和夫(みしま・かずお)
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神生理研究部長1963年生まれ。秋田大学医学部卒業。同医学部精神科学講座助教授、米スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授などを経て、2006年より現職。日本睡眠学会理事。著書に『不眠の悩みを解消する本』、『8時間睡眠のウソ。』、『朝型勤務がダメな理由』など。
内山 真(うちやま・まこと)
日本大学医学部精神医学系 主任教授1954年生まれ。東北大学医学部卒業。ドイツ留学、国立精神・神経センター(現精神・神経医療研究センター)精神保健研究所精神生理部長などを経て、2006年より現職。日本睡眠学会理事長。著書に『睡眠のはなし』、『睡眠障害の対応と治療ガイドライン第2版』など。
(写真=iStock.com)
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