消費市場立ち上がり経済は「自律拡大」局面に突入

次に、消費市場も本格的に立ち上がってくるだろう。まず、雇用・所得環境の改善が消費拡大に貢献する。インドネシア、フィリピン経済は、ここ2、3年、内外需の拡大に支えられて持ち直し基調にある。

そうしたなかで、企業業績の回復が賃金増や雇用増をもたらし、それがさらに消費増を生み、消費財関連企業の業績拡大が設備投資につながるという「自律拡大」の動きが出始めている。さらに、政府による支出拡大や減税政策なども、雇用・所得環境を改善させる要因となる。インドネシアでは、政府が地方での公共工事による雇用創出策の実施を検討しているほか、フィリピンでは個人所得税の減税が実施される予定である。

また、低インフレが続くことも消費の拡大を後押ししそうだ。2000年代のASEAN各国は、原油価格の高騰を背景とした高インフレで、消費者の購買力が大きくそがれた。例えば、インドネシアのインフレ率は2006年に13.1%まで急上昇したほか、フィリピンのインフレ率も2008年に8.2%をつけた(図表4)。

ところが、2015年以降、原油価格が下落に転じると、インフレ率もこれを受け低下した。2016年のインドネシアとフィリピンのインフレ率はそれぞれ3.5%と1.8%と、先進国並みの低水準になった。資源価格は足元でやや上昇しているものの、それでも2000年代半ばと比べると大幅に低い水準にとどまっている。資源価格の安定を受けて、2018年以降も、ASEAN5のインフレ率は低水準で推移すると予想される。低インフレが続けば、消費者の購買力が高まり、消費の押し上げにつながる。

中間層の台頭といった構造変化もASEAN5の消費を下支えする。ASEAN5では経済発展によって着実に中間層が増加してきた。この結果、各国で耐久消費財の普及率が上昇している。これまで所得水準の低いなかでも携帯電話は広く浸透してきたが、今後は自動車など高額耐久財需要も盛り上がってくるだろう。ちなみに、フィリピン貿易産業省は、フィリピンの自動車販売が、2016年の年36万台から2025年には100万台に増加すると予測している。

安定した政権運営が景気回復を促進

安定的な政権運営が続くことも、景気回復の重要な要因となる。ASEAN5では、1997年のアジア通貨危機後、長きにわたって政治的混乱が続いた。そのため、政権が継続的な経済政策やビジネス環境の整備などに乗り出すことが困難であった。この結果、国内の消費・投資活動が停滞しただけでなく、外国企業による直接投資も阻害されることになった。

しかし、2010年以降は、各国で政権運営が際立って安定するようになった。インドネシアでは、2014年に2度目となる直接的かつ民主的な選挙でジョコ大統領を選出し、ユドヨノ前大統領から混乱なく政権移譲を果たした。ジョコ大統領は就任後も、高い支持率を背景に、ビジネス環境整備やインフラプロジェクトの実施を進めている。もともと、世界第4位の人口を抱え経済発展の潜在力は高いだけに、経済政策運営の安定化によって、外国企業の見る目も好転しつつある。