長年赤字にあえいでいた岐阜のTシャツプリント工場「坂口捺染」が、今や売上20倍・年商11億円企業へと生まれ変わった。地元で“クセ強社長”として知られる3代目・坂口輝光さんは、コロナ禍で売上90%消失という危機に直面しながらも、大胆な投資と独自の販路開拓でV字回復を実現した。なぜ国内生産の逆風下で会社を成長させることができたのか。インタビューライターの池田アユリさんが取材した――。
薄利多売の世界で年商11億円
岐阜県・中西郷にある「坂口捺染」。Tシャツの加工プリント事業を行う同社は、従業員約十数人、加工賃が1枚約15~20円という薄利多売の世界で、長年赤字経営で苦しんできた老舗の町工場だった。
だが、3代目代表の坂口輝光さんは、従業員数を200人(うち正社員は45人)に増やし、入社した2004年と比べて売上は約20倍に拡大させることに成功。直近の利益率は23%を超えている。もともと売上5000万円ほどの町工場を、現在11億円規模の企業に変貌させた。
坂口さんは、地元で「クセ強社長」として知られている。なにより経営者らしからぬ見た目が目を引く。見た目は近所のいかつい兄貴といった印象だが、取材で出会った坂口さんは初対面でも壁を感じさせないフランクな人柄だった。
かつてはこの格好で営業先から怒られたこともあったというが、徐々に認められ、今では「坂口君はそれでいい」「それじゃないと」という評価を得るに至ったという。彼は、人と違うことを行う分、「何倍もの努力も必要だと思ってやってます」という。
「人のプラスになることに全力を投じる」
インタビューの中で、坂口さんはこのように語った。
「社長って誰でもできるし、やりたいと思えばできる。けど、やるって決めたのであれば、覚悟を持つ必要がある。『俺の覚悟って何?』って言うと、本当にギブだけ。雑用だろうがなんだろうが、人のプラスになることに全力を投じる。これを毎日繰り返すことだね」
山々に囲まれたこの会社は、どのようにして売上を拡大させ「利益を生み出せる会社」に変わっていったのか。この異端な町工場の社長がヒーローとなった転機は、本業の売上が90%ダウンしたコロナ禍だった。そこには、「人」に焦点を当てた独自の経営哲学“ギバー経営“があった――。


