しかしながら、日本の取引制度や卸との関係性は実に複雑で、物流費の分離表示は簡単には進みそうにない。取引制度や卸の必要性が業界ごとに異なるだけにとどまらず、同じ業界の中でも、直接取引やオープン価格を志向しているメーカー・小売と、そうでないところがわかれている。これは、メーカーと小売の寡占度や商品数、商品ごとの差別性の程度など、さまざまな要因が影響している。この複雑性ゆえに、商品価格と物流費・小売や卸のマージンを分離するためには、個別の交渉が必要となり、簡単には進まないのが実情だ。

これに対して米国では、卸を介さず、メーカーと小売が直接取引している。「オープン価格」の下、商品価格と物流費は分離しているのが一般的だ。そのため、メーカーと小売は対立関係というよりも、お互いの利益プールを最大化するためのパートナーシップ関係にあり、物流費を効率化するために連携しやすい。

運ばなくてもよくなる3Dプリンターの活用

ところで、そもそもなぜ商品を運ぶ必要があるのか、と考えてみる。それは生産現場と消費地が離れているからだ。この点において最もインパクトが大きいのは、3Dプリンターを活用することだ。これが普及していくと、より消費地に近い場所での生産が可能となり、在庫の保有量が大幅に削減する。ただし、これを推進していくためには、オンデマンド製造に必要なテクノロジーの活用も必要になってくる。

3Dプリンターに限らず、SCMの効率化においては、さまざまな段階でテクノロジーの活用がカギを握っている。例えば荷物や人、トラックの動きを「見える化」すること、自走式ロボットを活用したAIによる倉庫内の作業効率化、輸配送ルートを最適化するためのシステム、荷主と運送業者をマッチングするプラットフォームなどにより、SCMの抜本的な効率化が進む可能性がある。

つまり、これまで単純なコスト扱いだった物流・運輸が、テクノロジーを介することで、サービスの質そのものを変え、抜本的な効率化を実現できる可能性を秘めている。

最適な物流は業態によって違う。物流業者のコスト構造は半分弱が人件費だ。そのため、今のところラストワンマイルの逼迫度にスポットライトが集まりやすい。ECが普及するにつれ、その逼迫度は高まっていくだろう。労働力不足も深刻だ。物流会社と話をすると、トラックドライバーばかりでなく、倉庫内の作業員も不足しているという声が聞こえてくる。

サプライチェーンの抜本的な効率化を進めたとしても、ドライバーの不足分は吸収しきれないかもしれない。この場合は、物流のサービスの質を落とすか、ドライバーを集めるための賃金上昇分を、最終的には価格に転嫁せざるを得ない。消費者の負担増を考える前に、まずは、製配販(製造・流通・小売)が一体となり、SCMの抜本的な効率化にチャレンジするべきである。

森田章(もりた・あきら)
ボストン コンサルティング グループ(BCG)パートナー&マネージング・ディレクター。消費財・流通・小売・運輸を中心に、成長戦略、新規事業戦略、デジタルマーケティング、サプライ・チェーン・マネジメント(SCM)のプロジェクトを手掛けている。特に物流、食品・飲料セクターの経験が豊富。【BCG運輸・旅行・交通サイト】https://www.bcg.com/ja-jp/industries/transportation-travel-tourism/default.aspx
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