デジタル分野の競争では、既存の大企業よりも、「スタートアップ」と呼ばれるベンチャー企業が先行している。なぜか。それはベンチャーが「顧客起点」でシステムを作っているからだ。この動きはデジタル分野以外にも広がりつつある。既存の大企業は「デジタル化」の時代に生き残れるのか。BCGのパートナー・高部陽平氏が考察する――。

GEがデジタル会社に生まれ変われたワケ

「IoT」など最新のデジタルテクノロジーが、経営に大きな衝撃を与えるようになっている。それはどんな衝撃なのか。いくつかの具体例を通じて考えてみたい。

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米国製造業の代表選手であるGE(ゼネラル・エレクトリック)は、17年10月~12月期は赤字に陥ったものの、世界トップ3の一角を占める航空機エンジン製造部門は堅調を維持。同社は2012年に「インダストリアル・インターネット」という概念を提唱し、エンジンの利用状況をトラッキング(追跡・記録)し、先回りして点検・修理をサポートするシステムを構築した。グループ内の金融部門とそのデータを共有すれば、適切なタイミングで顧客に使用状況やニーズに伴うファイナンスの提案もできる。つまりGEは、IoTによって、航空機エンジンメーカーから、デジタルサービスカンパニーへと変身を遂げたと言える(GEは金融部門を売却した後も、製造業部門に関連する金融事業は継続している)。

このようなサービスを実現するにあたっては、リアルタイムに情報をトラッキングし、そのデータを基に、先を予測する必要がある。加えて、もろもろの変化に合わせて迅速に組織が対応できる体制を構築する必要がある。GEはいわゆる「アジャイル」(すばやい、俊敏な、という意味)な働き方へ全社的に変革したと言われている。

「今ならいくら貸せますよ」と提案するサービス

次に、最近、海外の銀行が取り組んでいる例を挙げよう。住宅を購入する際、多くの人はローン契約を行う。だが場合によっては、ローンの審査に落ちて、購入できなくなるケースもある。一般的に審査に落ちた理由は開示されないため、「どうして落ちたのか」がわからず、ひどく落胆する人も多い。じつは最新のデジタルテクノロジーを駆使すれば、そんな落胆を軽減することができる。

海外のある銀行では、ホームページから約10個の簡単な質問に答えるだけで、すぐに住宅ローンの融資額の目安が表示される。その項目も、家族構成や年収、現在の支出額などの多くの人が比較的簡単に回答できるもので、この国での住宅購入を考えていない筆者でも、試してみようと思えるレベルである。

顧客が住宅を買う前から「今ならいくらお貸しできますよ」と提案するサービスがあれば、ローンの審査に落ちて落胆するケースを減らせる。日本の銀行でも事前に住宅ローンの融資額を提示するサービスは行われているが、必要な書類が多かったり、回答に時間がかかったりする。もしくは、返済額と返済期間の入力により、ローンの総額を計算する機能にとどまる。

銀行が不動産会社より先に顧客へアプローチする

このようなサービスを実現する海外の銀行では、銀行に存在する膨大な過去のデータの解析結果やAIを活用し、ユーザー視点に立った簡素化・迅速化を実現したと推測される。

銀行によっては、さらに、融資の目安が表示されたウェブページに、物件の希望エリアを入力することで、目安の融資額で購入可能な物件が表示される。このウェブページから、物件の下見も申し込める。

この事例の何が画期的かと言えば、通常なら不動産会社(物件が先)から金融機関(住宅ローンが後)へと顧客の紹介が行われる流れを、金融機関から不動産会社へ紹介する流れを作っている点だ。銀行が不動産会社よりも先回りして顧客にアプローチすることで、従来は受け身だった住宅ローンのサービスを、顧客に対して積極的に提案するビジネスモデルへと変えていくことができる。

こうした変革が可能になった背景には、PCなどのマシンの処理能力が格段に向上したこと、同時に、IoTなどでかつてとは比べものにならないほど大量のデータが入手可能になったこと、そしてAI(人工知能)が格段に進化したことがある。