1分間に310万回のグーグル検索が行われている
ではこれまでのデジタル技術と今日のそれは何が違うか。具体的な数字で見てみよう。データに関して言えば、「容量」「速度」「多様性」の3点において、かつてとは比べものにならないほど進化している。
まずは容量だ。IDCの調査によると、2013年から2020年までの7年間に全世界で生成されるデータ量は、約10倍に増加する。写真、動画、チャット、Eメール、ツイート、ブログ、電子商取引などデータの多様化も進み、シスコによると接続できるデバイスの数も2020年に263億台と世界人口の約3倍になることが予想されている。
次に速度については、Voucher CloudとSmart Insightsによると2015年の段階で毎分1732テラバイトのデータが生成されているという。この年、インターネット上では1分間に310万回のグーグル検索が行われ、42万2000回のツイートがなされ、フェイスブックへの投稿も330万回に上った。送信されたEメールは約2億500万通だ。これらの数はおそらく、今後も増えていくだろう。
そしてデータを処理するアルゴリズム(問題を解決するための方法や手順)も、多様性を増している。「ディープラーニング(深層学習)」が実用可能なレベルになったことで、AIは脳細胞のように自ら発達させて、能力を強化できるようになった。
従来の「IT」は、IT機器を使い、仕事の効率化を図ることが中心であった。しかしながら、こうした技術の飛躍的進歩により、現在の「デジタル」は従来の「IT」の延長線上にはない。「デジタル」は、ビジネスモデルを変える、つまりは会社の在り方そのものを変えるものになったのである。
AIを「それほどでもなかった」という人の問題点
デジタル技術の急速な進歩につれて、現在は国や業界の垣根を越え、顧客接点の奪い合いが起きている。この段階で経営者が考えるべきことは、顧客を起点に、どのパートナーと、どんなネットワークを組むか、ということである。
これには2つの側面がある。1つは新たなサービスが実現できるかどうかは、それに応じたネットワークが組めるかどうかにかかっているということ。2つ目はこれと逆に組成可能なネットワークによって、新たなサービスが発想できるということだ。
そのためにも自社やグループ内だけではなく、他社のサービスや技術をよく知り、どこにつながるチャンスがあるのかを見極め、最終的に顧客にもたらす付加価値をイメージできなくてはならない。
AIに関しては「導入してみたけれど、それほどでもなかった」という声も聞かれる。だが、これは運用者側がAIの特性を十分に理解していないことに主な原因がある。特に、大企業ではその傾向が顕著だ。
Uberは時間帯によっては、タクシーより高くなる
デジタル分野の競争では、既存の大企業よりも、「スタートアップ」と呼ばれるベンチャー企業が先行することが多い。なぜなら、既存の大企業が自分たちの都合でつくったシステムを顧客に開放するだけなのに対して、彼らは「顧客に使ってもらうこと」を前提に社内のシステムを組み立てているからだ。これでは顧客にとっての「使い勝手」や「付加価値」という点で、雲泥の差がついてしまう。
近年、海外で急速に普及したタクシーアプリ「Uber(ウーバー)」のケースを考えてみてほしい。ウーバーはたしかに便利なサービスだが、決して安くはない。時間帯によっては、タクシーより高くなることもある。それでも顧客は、自分たちにとってより価値があると思えば、妥当な対価を支払う。ウーバーをはじめとするベンチャー企業は、それがわかっているから、徹底した顧客目線からサービスを考え、多少のリスクを負ってでも、それを実現しようとする。
これに対して大企業は、顧客との接点は多いのだが、その活用方法についてわかっていない場合が多い。