AIによる需要予測を積極活用し無駄を削減

2つめのポイントは消費者に近い部分での需要予測を高度化していくことである。ここでは、AI(人工知能)の活用が重要なカギを握る。需要予測の精度が高まれば、発注数量そのものの無駄が削減できる。

小売りの在庫管理においてはこれまで、発注担当者の経験と勘がカギを握っていた。大手スーパーマーケットなどでは今、これをAIに置き換える作業が進んでいる。

天候や近隣で開催されるイベント、競合の情報、SNSの情報などをインプットし、AIで解析していくと、かなり高度な需要予測が可能となる。経済産業省が実施している小売業の生産性向上に関する事業の一環で、NECが実施した実験を例に挙げよう。この実験では、クイーンズ伊勢丹2店舗で「商品需要予測ソリューション」を活用し、日配品10カテゴリ約70品目を対象とした需要予測および来店客数予測の実証実験を行った。需要予測に基づいた商品発注をシミュレーションしたところ、値下げロスを最大で30%削減できたばかりでなく、従業員による予測と同等以上の精度で来店客数を予測できたという。

近年、店頭における人の採用もかなり厳しくなってきている。そこで考えるべきは、店頭を起点とした物流網の構築だ。具体的には店頭での作業と物流センター側での作業を効率化という観点から見直していく。

この点に関しては、欧州にある小売の事例が1つの参考になるだろう。この小売では従来、店頭の商品棚割を考慮せず、ロールボックス(かご台車と呼ばれる人力運搬機)に積み込んでいたため、品出し時の店内移動距離が長く、時間もかかってしまっていた。これを、あらかじめ棚割を考慮した形へと変えることで効率化を実現している。

具体的には相互に棚が近い商品同士を組み合わせてロールボックスに積み込むことで、品出し時の店内移動距離を短縮した。またドイツでは、パッケージや店舗を標準化することで、店頭作業を効率化した事例もある。

製配販の連携で求められる業界構造の変化

サプライチェーンの流れをさらに川上まで上っていくと、製配販(製造【製】・流通【配】・小売【販売】)という垣根を越えた連携の必要性も見えてくる。具体的にはメーカーと小売の良質なパートナーシップをどう結んでいけるかだ。

日本ではこれまでメーカーと小売はより良い条件を相手から引き出そうと、厳しい交渉を重ねていた。メーカーは通常、生産供給に関する情報を自分たちで抱え込んだまま、卸へ商品を渡す。卸はそれを中間在庫として抱え、小売からの発注に基づいて出荷していた。

この従来型の構造が続く限り、小売が持つ販売情報や需要予測などの情報が即座に生産に生かされず、全体として非効率な状態が続いてしまう。

サプライチェーンの効率化を妨げている最大の要因は、「建値制」や「店着価格制度」のような日本の取引制度にある。メーカーが出荷の際に提示する希望小売価格には、あらかじめ卸や小売に支払われるマージン(手数料)が上乗せされている。これを「建値制」と呼ぶ。また、「店着価格制度」は商品価格と物流費が一体となって店舗への納品価格となる価格決定方法である。

建値制や店着価格制度の下では、どうしても原価(コスト)構造が不透明になってしまい、小売によるメーカーへの疑心暗鬼から、メーカーへの値引きなど過度な要求へとつながりやすい。また、物流費がブラックボックス化してしまい、それを効率化しようというインセンティブが働きにくくなる。最近、それを見直すべきだとして物流費を分離表示することなども検討されるようになってきた。