アベノミクスは正しいけれど、成果はまだ不十分

さて、本書の原書が2016年に出て少したつ。時事ネタの更新(ビットコインの話など)については、本書の訳注で少し補ったりしているけれど、1章を割いて論じられている日本の状況――アベノミクス――ついてここで少々触れておこう。

まず、その話に入る前に本書におけるアベノミクスの基本的な描かれ方が非常に肯定的であることには注目してほしい。デフレは基本的によくないものだ。デフレはありがたいなんていうのは、そもそも見当違い。デフレは何とかすべきだし(そもそもデフレに陥らないようにすべきだし)、そのために多少のインフレになってもかまわない。アベノミクスはまさにそれをやろうとしている。それが構造改革とか成長戦略とかいったものに代わるわけではないというのは本書の述べる通りながら、そうしたものを支援するためにも金融政策がとても重要なのだ、というのはまさに本書の指摘するとおりとなっている。

が、残念ながらアベノミクス――中でも日銀の量的質的緩和――は、いまだにデフレを克服して2パーセントのインフレに持っていくところまではきていない。2017年7月、日銀の黒田東彦総裁は2パーセント実現の目標をさらに先送りにして2019年にしている。これを見て、アベノミクスは失敗だ、効果があがっていないという論者もたくさん出ている。

でも一方で、雇用状況はそこそこ改善しつつある。失業者は減り、非正規雇用ばかりだという当初の批判をよそに、やがて正規雇用も増えてきて、ブラック企業は人集めに苦労するようになってきている。賃金も、少しずつ上がっている。こういうと「オレの給料は増えていない」とか「実感がない」といった話を持ち出す人が多いけれど、これは経済全体の話なので、あまりそういうミクロすぎる話をするのは適切とは言えないだろう。その意味で、金融緩和の効果は着実にあがっている。