このまま手を打ち続けられるか

もちろん、それができるかどうかは大問題だ。日本銀行のほうは、デフレ克服に熱意をもった審議委員が次々に登場し、現在の政策が大きく変わることはしばらくなさそうだ。だから金融政策のほうはしばらく大丈夫かもしれない。その一方で財政政策のほうは、大きな無駄遣いとなって、景気を刺激するかもしれなかった東京オリンピックは、小池都知事のピント外れな独断による無意味な市場移転延期により、実現すら危うい状態になっているし、それ以上に消費税率を10パーセントに上げようという愚策も、これまでは延期され続けてはきたものの、どうなるかわからない。そして何より、政権与党の中に安倍首相の経済政策を引き継ごうという政治家がほとんど見当たらず、財政再建ばかりを掲げたがる人しかいないのが、大きなリスクとなっている。ホント、なぜこれほど世間的な人気の高いアベノミクスをそのまま受け継ごうという政治家が出ないのかはまったくの謎だ。財政再建を掲げて消費税率を上げたら、景気崩壊で政治生命を絶たれるに決まっているのに……

が、お金の話からはちょっとずれてしまった。どんな結果になるにせよ、本書の現在の書き方からもわかるとおり、アベノミクスの金融緩和の部分に関してはすでに一定の評価が定まっている。本書の立場がどれについても極めて標準的なものだ、というのは繰り返しておこう。いまだにアベノミクスについて、異常な政策だとか効果がないとか言う人がいるけれど、本書を読めば、決してそんなことはなく、むしろこんな入門書ですら取り上げるほどのごく標準的な政策なのだ、ということはわかるはずだ。

山形浩生(やまがた・ひろお)
評論家、翻訳家。1964年生まれ、マサチューセッツ工科大学修士課程修了。大手シンクタンクで地域開発や政府開発援助(ODA)関連調査を手がけるかたわら、経済、文学、コンピュータなど幅広い分野で翻訳・執筆を手がける。著書に『新教養主義宣言』、訳書にポール・クルーグマン『クルーグマン教授の経済入門』、トマ・ピケティ『21世紀の資本』、フィリップ・K・ディック『ヴァリス』など多数。