多面的かつ王道をいく経済の入門書

今回翻訳したチャールズ・ウィーラン『MONEY もう一度学ぶお金のしくみ』は、そういった話を、非常に標準的な形であれこれを説明しようとした本だ。お金について、その起源、金本位制など昔の仕組みから、インフレやデフレの説明、物価指数の計算なんていう地味なところから、中央銀行の果たす役割まで説明したうえで、かつての大恐慌から最近の、リーマンショックやユーロ圏の大問題、中国と米国の課題、さらにはビットコインやアベノミクスと、時事的な話題まで盛り込んで、お金の果たす役割を述べる。特に、いまの何も裏付けのない不換紙幣というものが、危うさも抱えつついかにすごいかについて強調してくれる。

『MONEY もう一度学ぶお金のしくみ』チャールズ・ウィーラン(著) 山形浩生、守岡 桜(翻訳)東洋館出版社刊

どの部分をとっても、まったく目新しい話が書かれているものではない。非常に堅実な入門書になっている。その意味で、この手の話に詳しい人は特に新しい発見はないかもしれない。さらに、中庸的な書き方をしているので、さまざまなことについて強い意見を持つ人は、逆にいら立つかもしれない。例えば、ビットコインでお金のあり方が完全に変わり、中央銀行はもはや不要となり、しかもそれを通じて新しい世界が実現すると考えている人は、本書でのビットコインの説明を古くさい理解に基づく戯言(たわごと)だと断じるかもしれない。

が、まあそんなに詳しい人がこんな入門書を読むこともないだろう。そして、そうした人であっても本書の各種トリビアには「へえ~」と思うこともあるんじゃないだろうか。ニューヨーク連邦銀行の地下金庫に、毎晩サンドイッチが置かれるなんていうネタは、ぼくも本書で初めて知った。知ってどうなるわけではないけれど……まあだからこそトリビアだ。

そしてその書きぶりもとても平易だ。アメリカ色の強いオヤジギャグが並ぶのにいささか閉口する人もいるだろう。インフレファイターの映画の話とか、いささか悪のりめいた部分はある。が、それはご愛嬌(あいきょう)だ。過剰な比喩で話の本筋がわからなくなるようなことも、比較的少ない。本書を通じて、お金についていろいろ多面的な理解が得られるのは確実だし、そしてそれがとてもスタンダードな理解だというのも重要なことだ。