「ハッピーリタイア」をむかえる方法

では第三者への事業承継とはどのように行われるのか。2つの事例を紹介させてください。最初の事例は、調剤薬局のワタナベドラッグ(仮称)です。開業は1994年。夜間営業など地域密着型経営で業績を拡大し、直近の店舗数は3店舗になっていました。ところが2016年の薬価改定で売上が減少。自身の両親介護の不安もあり、事業承継を考えるようになりました。

しかし息子は大手商社の社内弁護士で、退職は考えられません。そこで事業譲渡を検討し、最終的には大手薬局チェーンに譲渡しました。ワタナベドラッグのオーナーは「独自で進めていたらいつまでたっても事業承継が進まず、最終的には廃業していたのではないか」と振り返ります。

2つ目の事例は、廃業からM&Aに切替えたタナカ物流(仮称)です。35年前に田中社長が創業したタナカ物流は、トラック30台と自社倉庫を保有する年商5億円の中小物流会社です。安定した業績を残してきましたが、田中社長も65歳となり、気力や体力の面で徐々に衰えを感じ始めていました。一人息子がいましたが、東京の大企業に就職しており、後を継ぐ気がありません。役員や幹部社員に後を託すという事業承継の道も模索しましたが、銀行に1億5000万円の借入金があり、その全額を田中社長が個人で連帯保証していました。また、自宅も借入金の担保にしており、こうした負債を役員や幹部社員が肩代わりするのはほとんど不可能です。

田中社長は最終的に吉田物流(仮称)にタナカ物流の株式を100%譲渡することを決めました。吉田物流の売上高は約10億円。経営者はまだ40代で、田中社長は息子に会社を託すような思いで譲渡を決めました。その後、役員や従業員はいっさい変わらず、待遇も維持されました。グループ力が強化されたため、今まで以上に仕事が増え、業績も右肩上がり。田中社長は、経営から身を引き、株式譲渡代として2億円あまりを手にして、「ハッピーリタイア」を迎えることができました。

選択肢は、親族内承継、上場、廃業、M&Aの4つ

中小企業の廃業は深刻な社会問題です。M&Aは廃業を防ぐ有効な手立てですが、その後、グループ企業として結果が出なければ、譲る側、譲り受ける側のお互いが損をすることになります。トラブルを避けるためには、知識や経験をもったM&Aアドバイザーが必要です。

FUNDBOOKはM&Aアドバイザリーの専門会社ですが、ほかにも地域の会計事務所や銀行・信用金庫などがM&Aを仲介するケースもあります。

事業承継におけるオーナー社長がとれる選択肢は、親族内承継、上場、廃業、M&A(親族外承継)の4つしかありません。廃業してしまうと、お客様や従業員をはじめ仕入先など、関係者に迷惑をかけ、長年培ってきた技術やノウハウもすべて失われてしまいます。日本経済にとってもマイナスです。前もって事業承継に備え、ぜひ廃業することだけは避けてください。

畑野 幸治(はたの・こうじ)
FUNDBOOK 代表取締役CEO
1983年生まれ。大学在学中に株式会社Micro Solutionsを創業し、2016年11月より株式会社BuySell Technologiesの代表取締役に就任。翌年に同社の全株式を譲渡、2017年9月に株式会社FUNDBOOKの代表取締役に就任。M&Aプラットフォーム事業を展開している。
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