劣等感が災いして完璧主義と支配欲を生む

アドラー心理学を使った研修やカウンセリングで定評のある岩井俊憲氏(ヒューマン・ギルド代表)は、豊田氏の一連の心理状態をこう分析する。

「怒りというのは普通、瞬発的に終わるものです。しかし彼女の場合怒りは執拗(しつよう)に続いています。これが特徴その1。2つ目の特徴は、彼女は挫折知らずで自分を追い込むタイプ。その執拗さは劣等感の裏返しです」

桜蔭中高から東京大学法学部、厚生労働省、米ハーバード大学留学というエリートコースをたどった豊田氏だが、記者会見では“完璧主義”“劣等感”を匂わせるキーワードがあった。

「振り返れば、自分はなんでも完璧にやらなきゃいけないとずっと思ってきて。仕事も、国会でも地元でもたぶんすごい抱えちゃっていて」
「私はもともと自分にものすごく自信がなくて。自己肯定感がめちゃめちゃ低くて、なんでもすごくがんばらないと自分はここにいちゃいけないという思いを小さいころからずっと持っていて」

秘書への執拗な追及は、何でも完璧にやらねばならないのに、未達成な自分の劣等感の表れからくる、というのだ。はた目から見ると劣等感なんか持つ必要がないキャリアだが、「他者との比較ではなく自分の掲げた、あるいは親から期待されて自分の中に勝手に内在化した劣等感」というのが岩井氏の見立てだ。

さらに、怒りの元には、別の感情がある。その元は一次感情といい、悲しみ、心配、落胆、寂しさなどがベースに潜んでいる。次にくる怒りは二次感情となり、対人関係の中で発動する。

アドラー心理学によれば、感情は、ある状況で、特定の人(相手役)に、ある目的(意図)をもって発動されるとする。そして、怒りの目的にあるのは、大きく次の4つだ。

(1)支配
(2)主導権争いで優位に立つこと
(3)権利擁護
(4)正義感の発揮

いずれの要素にも、根底には「~しなければならない」「~べき」という信念がある。キレながらお説教やクレームをまくし立てる暴走老人に多いのは(4)のタイプである。

豊田氏の場合は「予定通り業務をこなせず、自分が傷つけられたと思い、秘書の失敗に落胆しているのです。それに対して怒りで表すと、秘書としてはなぜこんなにキレられるのかがわからない」(岩井氏)

上司が支配や主導権を目的に、理不尽な怒りを発動すれば、傷つけられたと感じる部下は「だったら私も反撃します」というモードで復讐に至る。豊田氏と秘書、両者とも対人関係のトレーニングができていなかったわけだ。