「水道代を補填しろ」「かぶれた頭皮の治療代をよこせ」
たとえば、どんなクレームなのでしょうか。
「訪問介護のヘルパーさんの対応や言葉づかいなどにちょっとでも気に食わないことあると怒鳴りつけ、ヘルパーさんを精神的に追い詰めるんです。連絡を受けて駆け付けたケアマネに対しても同じクレームを言い続け、事業所には『担当を変えろ』と言う。そういう“結果”を引き出すことが快感なのか、『オレはヘルパーとケアマネを十何人辞めさせた』と自慢げに話す利用者さんがいました。そんなことをしても、介護サービスが滞るだけで良いことは何もないんですけどね」(Mさん)
なかには、クレームをお金に変えようとするような悪質な利用者もいるそうです。Mさんが担当した利用者には、ヘルパーが水道の蛇口を閉めずに帰ってしまい「水道代を補填しろ」というクレームがきたケースや、身体介護で「髪を洗ってもらったが、シャンプーをよく流さなかったため頭皮がかぶれた、治療代をよこせ」といってきたことがあったそうです。
「ヘルパーさんも、ちょっとしたミスがトラブルになることはわかっていますから、そういう(不注意や軽率な)行動はしないはずなんです。でも、一件一件、その真偽を確かめる余裕は現場にないですし、事業所も事を穏便に済ませたいという意識があって、お金を払っちゃったんですよね」(Mさん)
Mさんは、その後、別の事業所に移り、担当を外れましたが、「あの利用者さんは、それに味をしめて、同じようなクレームを続けているかもしれません」と言います。
▼老老介護 認知症と夫に殴られた妻が反撃
一方、家族が介護サービスを妨げることもあります。以前、当欄で取り上げたパラサイトシングルの長男が介護者であるケースです。自らの収入がないため、親の年金が頼りの生活。自分の自由になるお金を確保するには、介護サービスにかかる費用を削るしかない。ということで、ケアマネージャーがつくったケアプランを受け入れず、介護サービスを最低限にしてしまうのです。これも困難事例のひとつで、こういうタイプは、もし親の体調が悪化したり不快な症状を訴えたりしても、お金のために無視してしまうのかもしれません。
ケアマネが身の危険を感じる困難事例もあります。Mさんが語ります。
「認知症には暴力的な傾向が出る症状があります。私が体験したのは、ご主人にその症状が出て、奥さんがそのケアをしている老老介護のケースです。何かのきっかけでご主人がそうなると、奥さんを殴ったり蹴ったりする。奥さんのほうも結構、気が強くて、されるがままではなく反撃する。私が訪問したのは、まさにその最中で、ふたりが取っ組み合っていた。当然、止めにふたりの間に割って入りましたが、ご主人は認知症ですからね。高齢者とは思えない強烈なパンチを何発かもらいました」