“働き方改革”“ビッグデータ”のブームもあって鳴り物入りで導入された新システムが、現場で敬遠され、使われぬまま──そんなムダが今、各所で頻発しているという。

作業を削減したら、帰宅が遅くなった

ある企業のコールセンターで実際に起きた話です。コールセンター業務は、電話で話しながら打ち込む1次入力と、後でチェックしながら打ち直す2次入力の作業があります。そのコールセンターでは2次入力システムの自動化を進めることに。計算では年間で数十人月(人月は1人が1カ月にできる作業量の単位)の効率化が見込まれ、人件費も削減できるはずでした。

河野修平●A.T.カーニー プリンシパル。東北大院卒。IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)を経て2006年A.T.カーニー入社。IT戦略などのコンサルティングを手がける。

システムは無事に組み上がりました。運用面も問題ありません。ところが、期待されていた人件費削減効果は得られませんでした。

どうしてか。全体で数十人月の削減になるといっても、1人当たりでは1日数分です。作業時間を数分詰めたところで、シフトをいじったり人を減らすことはできません。

結局、スタッフは手持ち無沙汰で、システム改善によって捻出された時間にネットで芸能ニュースなどを閲覧していました。その企業は結果的に、スタッフにウェブサーフィンさせるために数千万円のIT投資を行ったようなものです。

似たような事例はほかにもあります。ある企業はIT導入で1日30〜40分の作業時間削減に成功しました。ではそのぶん、社員を早く帰らせたのかと思いきや、「定時まで働かせないともったいない」と、どうでもいい仕事をつくってやらせるようになってしまった。新たな作業が増えたことで、社員の帰宅時間はかえって遅くなりました。いったい何のためにIT化したのかと首を傾げたくなります。

このように、何らかの効果を期待してITを導入したのに、期待外れに終わったり逆効果になるケースが後を絶ちません。A.T.カーニー日本オフィスが行ったインタビューでは、IT投資で想定した効果を得られたかという質問に対して、9割の経営者が「期待した効果が出ていない」と回答しました。ITは、導入しさえすれば必ず効果が得られる魔法の杖ではありません。むしろ失敗するケースのほうが多いのです。

よくあるのは、IT導入に合わせて業務や体制の見直しを適切に行わなかったことが失敗の原因になっているパターン。前述の作業時間短縮に成功した企業もそうです。IT導入によって生まれた余剰人員を他の忙しい部署に異動させると最初から決めておけば、どうでもいい仕事をつくりだすというムダをしなくてすんだはず。その意味では、ITというより業務や体制の設計の問題です。