導入した後もエクセルに手打ちで入力
業務の見直しでは、古いやり方を選択肢として残さないことが大切です。ある中小企業が、ERPという部門ごとに構築されたシステムを統合・一元化する基幹システムのパッケージソフトを導入しました。成功企業のベストプラクティスを参考にしてつくられているので、そのやり方に合わせれば業務も効率化される、ということになっています。
ところが、導入後も業務は効率化されませんでした。ユーザー(業務現場の社員)は相変わらずエクセルに手打ちで入力していたからです。
新システムとエクセルへの手打ちをゼロベースで比べれば、新システムを使ったほうが楽です。しかし、一度覚えたものを捨てて新しいやり方をマスターしようとすると、一時的に作業が遅くなってユーザーの負担が増えます。それを嫌ってユーザーは新システムを使おうとしなかった。エクセルへの手打ちを禁止しなかった会社側のミスです。
最近よく見かける営業社員へのiPad配布でも同じことが起きています。iPadなら外で日報を書いて直行・直帰できるし、重い紙のパンフレットを持ち歩かずにすむ、という触れ込みですが、実際はというと、営業社員の多くは会社に戻ってから日報を書き、パンフレットを持ち歩いています。
ユーザーはやり方を変えるのを面倒がります。現場に浸透させたければ、紙のパンフレットをすべて捨てるくらいの大胆さが必要でしょう。
社内SNSで“本音”はありえない
そもそも必要のないものを入れているケースも目立ちます。ユーザー部門から「あったら便利」、ITベンダーから「あると安心です」などと、いわれるがままに追加していった結果、システムがマストではない機能であふれ返るのです。
たとえばあるシステムの機能が100あるとします。うち1年間に1回でも動くのは30程度で、残り70の多くはエラー処理。エラーがない限り一度も使われることはありません。
エラー処理を全面的に否定するつもりはありません。しかし、マストでないものを次々に追加していけば、それだけ要件定義が複雑になって時間がかかります。だからといってシステムを稼働する時期を後ろにずらすことも許されないため、開発やテストにしわ寄せがきて、たいていは見切り発車で稼働させることになります。その結果、不具合が発生してコストが余計にかかったケースは枚挙に暇がありません。
ちなみに最初に起案した通りのコストでシステムが導入できる案件は半分もありません。「あったらいいな」で追加するのもいいですが、マストでないものを加えることで生じるデメリットも考慮すべきです。
マストでないものを入れた結果、一応は使われるものの、何の効果も得られなかったり、かえって非効率になることもあります。
最近でいうと、社内SNSなどの情報共有系ツールが代表例でしょう。社内のコミュニケーションを促進したいという意図はわかります。しかし、実際に起きているのは情報の低質化、散在化です。ユーザーは「とりあえず上げておけばいい」と、どうでもいい情報をアップ。その結果、共有するほどの価値のない情報でSNSがあふれ返り、本当に重要な情報が埋もれていきます。「とりあえずCCで関係者全員に送っておこう」とみんなが考えた結果、大量のメールであふれて大事な情報を見逃すのと同じことが今、情報共有系ツールで起きています。
そもそも社内SNSを導入しても、本音を書き込む社員はほとんどいません。オープンな場で本音を明かせば、後で問題が起きやすいことを知っているからです。それを気にせず平気で書くのは、どちらかというと問題社員です。ある企業は、社内SNSにおかしな情報がアップされたらすぐ削除できるように、監視する社員を一人置いています。はたしてコミュニケーションを活発にさせたいのか、それとも抑え込みたいのか、どうもチグハグな印象です。