増え続ける医療費。米国では「高齢者のがん検診は控えよう」という「いらない医療」という運動が起きている。一方、日本は「コスト削減」を前提とするだけで、さまざまな施策は「患者不在」となっている。たとえば日本ほど多項目の健康診断をする国はないが、医師の上昌広氏は「座高測定やメタボ検診など一律の健康診断は、患者不在の典型例だ」と指摘する。医療のあるべき姿とは――。
米医学会が指摘する「ムダな医療」とは
2011年からアメリカの医学会では「Choosing Wisely(賢い選択)」という運動を展開しています。この運動は、アメリカ全体の総額医療費を削減するという「コスト」の面では首肯できます。
たとえば(1)は、ウイルスには抗生物質は効かないので当然です。(2)もコレステロール対策薬の特許が切れたことで、これまで利潤をあげてきた製薬会社の圧力が減り、ようやくまともな議論が始まったところです。
医療費削減は米国政府の大きな課題です。特に09年にオバマ政権が誕生してからは保険加入者が増え、優先順位が上がっています。これに対して医学会は、政府の介入で医療の柔軟性が失われることを恐れ、先んじて「いらない医療」を決めることで、主導権を取ろうとしています。この運動には、「患者のため」だけではなく、「医学会のため」という側面があるのです。
IT技術やゲノム研究の進化により、いま医学の世界では「個人化」が急速に進んでいます。たとえば(9)は、祖父や父親など家族が脳卒中で倒れている場合、遺伝的にも環境的にも脳卒中になりやすく、定期健診が有効です。検査をすることで、本人のストレスも減ります。(5)や(6)、(7)、(8)についても、人によって判断を変えるべき。もはや一律に判断することは時代遅れです。
国ごとにも違います。(3)ではサプリメントが否定されていますが、ダイエットブームの影響で日本は「貧血大国」。特に女性の栄養不足は深刻です。鉄分のサプリメントは有効でしょう。