プリンター大手のセイコーエプソンが、今年9月、高級腕時計の市場に参入する。エプソンがアナログ時計の独自ブランドをつくるのは初めてだ。「爆買い」が一巡し、落ち着きを取り戻しつつある腕時計市場に、なぜ突然殴り込むのか。その背景には「ウエアラブル」の拡大を狙うというしたたかな狙いがあった――。

エプソンとセイコーの「同門対決」か

プリンター大手のセイコーエプソンは腕時計で初の独自ブランド「TRUME(トゥルーム)」を立ち上げ、9月末から高機能アナログ腕時計8モデルを順次投入する。価格は24万~28万円で、全国数十の家電量販店に専用ブースを設けるなど、激戦の高級腕時計市場に割って入る。

エプソン「TRUME TR-MB8001」

エプソンは家庭用でキヤノンと首位争いを演じるなど、プリンター事業の知名度は高い。その半面、消費者には腕時計メーカーとしての存在感は薄い。しかし、腕時計事業はエプソンの祖業そのものだ。エプソンは1942年、当時の服部時計店(現セイコーホールディングス)の創業家と同社子会社である第二精工舎(現セイコーインスツルメント)の出資を受け、腕時計の部品製造・組立工場として誕生した会社だからだ。

エプソンはその後、第二精工舎から事業の一部を譲り受けて腕時計の開発・製造を手掛けてきた。さらに、現在もGPSソーラー腕時計「アストロン」などの高機能腕時計を、セイコーHD傘下のセイコーウオッチにOEM(相手先ブランドによる生産)供給している。

現在、エプソンの筆頭株主はセイコー創業家の資産管理会社といわれる三光起業(5%)。セイコーHDの持ち株比率は3%で、直接の資本関係が深いとはいえないが、エプソンは「SEIKO」ブランドの腕時計にとって重要な存在だ。今回、高級腕時計市場に参入することで、兄貴分のセイコーと「同門対決」を行うことになる。