タイトルに一瞬たじろぐが、中身はいたってまともな起業物語である。「排泄予知システムは、世界を幸福にする」と著者は言う。
「介護の現場で、排泄のケアは過酷な重労働。そのタイミングがわかるだけでも、労力と人的コストを大幅に減らすことができます」
開発しているのは、超音波を用いたウエアラブルの排泄予知デバイス「DFree」。従来にない発明品だ。着想の発端は、なんと自身の壮絶なうんこお漏らし体験だという。
だが、本書で印象深いのは、その後のシーン。米国バークレーに留学し、ビジネスを学ぶ2人の日本人が、うんこ問題について真剣に議論する。
「究極は、『うんこが体内でガスになって消えないか』。そこまで考えましたよ。でも、さすがにそれは無理と打ち消しましたけども」
人がバカげていると思うアイデアを「真剣に考えるのが僕のような起業家の仕事だ」と著者は述べている。確かに、それがなければ、新しい商品は生まれない。
会社の設立、スタッフと資金の調達、商品開発、試作機の実証試験と著者は突っ走る。しかし、驚くのは協力を仰いだ技術者などスタッフ皆が、無報酬でこのプロジェクトに参画していることだ。
「テーマがユニークだというのもあったでしょうけれど」と著者は振り返る。
「協力者のほとんどは僕と同年代で30歳前後。会社勤めでバリバリ仕事をしていても『このままでいいのか』と考え込む時期ですね。何か新しいことをやってみたいと。そこへ『世界初の商品を開発する』という話が来たのですから、タイミングが良かったのかもしれません」
スタート時点で、手持ち資金はわずかばかり。ベンチャーキャピタルの融資もなかなか決まらず、試作機ができるまでは綱渡り状態が続いた。
「気持ちが折れることはなかったですね。いくつかポイントはありましたが、一番大きな後押しは、実証試験の現場で、介護施設の人たちが『これはいい』と評価してくれたことです」
DFreeは今月、尿の状態を検知するデバイスが先行して発売される。排便予知デバイスは、来年度中には発売したいという。起業のプロセスが克明に描かれた本書は、ベンチャービジネスとはどういうものかを知るのによい入門書でもある。