毀誉褒貶のある人物である。元新聞記者の経験を活かして大学で教えるかたわら、自身が創立した日本ジャーナリスト教育センターでも後進の育成に努める。一方で、徳島新聞社在籍時から運営しているブログ『ガ島通信』はたびたび炎上を起こしている。色眼鏡で見る人もいるだろう。
だが、この時期に本書が刊行された意義は大きい。ネットの偽ニュースが寄与したとされるトランプ米大統領誕生とほぼ同時期に、日本でも一部上場企業DeNAが運営するネットメディアにおいて医療情報の信頼性が問題になったばかりだ。私自身がこの問題提起に関わったこともあり、藤代氏が本書でどう論考するのか、注目していた。
本書の構成は少し変わっている。代表的なネットメディアを紹介するルポ的な部分が多くを占め、ネットメディアに対する評価の部分がそれを前後から挟み込む。ルポは充実しているが、「論考」に期待していると肩透かしを食うかもしれない。構成について、藤代氏は次のように説明する。
「ネットニュースでは生産者の顔が見えない。誰が作り、どう運ばれたかわからない料理なのに、おいしそうに食べているようなもの。有名な店だから、みんなが食べているから平気だろうと高をくくっている。偽ニュースを生み出したのは、このようなニュース消費者の態度でもある」
だから消費者に対して、生産者の顔を積極的に開示するのが本書の第1の狙いだという。他方、生産者側、つまりネットニュース事業者に対しても厳しい目を向け、「内容に責任を持たない単なるプラットフォームから、言論機関でもあるメディアへ脱皮する時期にきている」と指摘する。
藤代氏は特に「メディア宣言」を発したヤフーについて、「都合が悪いところはプラットフォームの顔をして逃げている」と痛烈に批判する。その指摘は的を射ている。ただ、同氏はヤフー社長への本書の取材可否をめぐるトラブルの顛末を公開し、物議を醸してもいる。本書に記された内容も、公正中立とばかりはいえないだろう。
それでもなお、現在のネットメディアの全体像をつかむには適した本だ。本書を読み終えた者としての正しい姿勢は、この内容すらどこまでが客観的事実で、どこからが意見なのかを考えながら、日々のニュースを読むことだといえるだろう。