今後、病院不足が最も深刻になるのは、高度経済成長期に新たに開発された大都市近郊のベッドタウンだ。多くのベッドタウンでは、これまでは住民が若かったため病院や介護施設があまり整備されてこなかった。しかし、75歳以上の高齢者の割合が増える2030年には、救急車のたらい回し、外来の待ち時間延長、手術や入院の待ち期間が長くなるといった事態に陥る恐れがある。しかも、人口が減り都市部の住居が余り始めているので、アクセスの悪い団地などに若い世代が移り住む機会は減っている。老朽化した団地の中には、空き家が目立ち、住民は高齢者ばかりになっているところもすでに出始めている。
「人口推計と医療資源、介護施設ベッド数を合わせてシミュレーションしてみると、特に大変なことになりそうなのが埼玉県中部から東部にかけて、千葉県の西部、東京の多摩地区、川崎と横浜の北部から神奈川県央にかけて。それから、愛知県の西三河北部医療圏(豊田市、みよし市)、西三河南部東医療圏(岡崎市、幸田町)・西医療圏(碧南市、刈谷市など)、東三河南部医療圏(豊橋市、豊川市など)です。これらの地域では、心筋梗塞や脳卒中を起こして救急車を呼んでも、受け入れ病院がなかなか見つからず手遅れになる危険性もあります」と国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野の高橋泰教授。
埼玉県は人口10万人対医師数、10万人対病床数とも全国ワースト1の少なさだ。約720万人の人口は30年には40万人減るが、10年には20%だった高齢化率が30年には30%になると予測される。75歳以上の人口の増え方は急激で、10年の2.1倍の124万人。もともと病院の少ないところに、65万人も75歳以上の人が増えるわけで、急性期病院まで高齢者で満員という状況になれば現役世代の治療も滞りかねない。