約15年後の2030年。定年も視野に入ってくるころ、日本の医療はどうなっているのか。今の自宅がある街に住み続けても大丈夫なのか──。地域別に徹底シミュレーションした。
約15年後の2030年には、現在より人口が約1000万人減り、1億1662万人になると推計(12年1月現在)される。大きく減るのは0~64歳の人口で、毎年100万人、今世紀末まで減り続ける。医療の必要度が高まる75歳以上の人口は、25年まで年間50万人増加し続け、3人に1人が65歳以上の高齢者になる。バブル期に就職した世代が定年を迎えるのもこのころだ。
25年には年間160万人が亡くなる多死社会が到来する。しかも、非婚化が進んでいるため、いわゆる“おひとりさま”の単身世帯が4割近くになるとみられる。人口の多い大都市で医療難民、介護難民が続出しかねない。
「人口当たりの病院のベッド数や医師数などの医療資源については地域格差が大きく、同じ都道府県の中でも地域によって事情が異なるのが現状です。また、ほとんどの地域で人口が減少しますが、その程度は地域によって大きく異なります。現時点で心筋梗塞や脳卒中を治療できるような大病院や人口当たり医師数が少なく、これから高齢者人口が急激に増える地域が最も悲惨で、医療サービスが必要なときに受けられなくなる危険性が高い」。国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野の高橋泰教授は、そう警告する。
国もただ手をこまねいているわけではない。厚生労働省は、団塊の世代が全員75歳を迎える25年に備えるべく、医療制度改革に着手している。2014年10月から各病院が、「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の4つの機能の中からどのような医療機能を持つか都道府県へ報告する「病床機能報告制度」が始まった。
高度急性期とは、救命救急病棟、集中治療室、心臓病や脳疾患、がんの手術の前後などの急性期の患者に対して診療密度が特に高い医療を提供する病棟・病院のこと。一方、回復期は、在宅復帰に向けたリハビリテーションを提供する病院・病棟だ。慢性期は、病気は完全に治らなくても、地域で暮らしを続けられるように体や環境を整えてくれる「生活支援型医療」であり、高齢者が主に必要とする医療である。現状でも、高度急性期が36万床で過剰であり、そこを減らして回復期や長期のケアが必要になる脳卒中、慢性心不全、認知症など慢性期の病院(病棟)を増やすことが不可欠になる。今年4月の診療報酬改定では、看護体制や医療行為の条件が厳格化され、厚労省は高度急性期病床を2年間で27万床まで減らそうとしている。