なぜ「お受験エリート」は間違えるのか――。「『皆が言っていること』を鵜呑みにして『事実』を見ようとしないからだ」と『デフレの正体』著者・藻谷浩介さんはいう。全国をくまなく歩き、現場を知悉する理論家が、日本経済に関わる疑問に答える。

「××性」「××率」「1人当たり××」という数字は、慎重に扱ったほうがいい。経済学に通暁しているような人でも、それが分数であることを忘れたまま議論を進めているようなことが少なくない。

例えば「出生率」。出生率が下がれば子どもが減る、と考える人がいる。だが、出生率とは、子どもの数を親の数で割った数字である。出生率が下がったからといって、子どもの数が減るとは限らない。逆に、親の数が減れば、出生率が上がっても、子どもの数は減る。実際に、厚生労働省の「人口動態統計」によれば、合計特殊出生率は05年に1.26と過去最低を記録してから09年まで一貫して上がっているが、09年の出生数は107万人で、05年の106.3万人に次いで少なかった。

つまり、「割り算」した数字と絶対数とは、同じ土俵で扱ってはいけないということだ。2つの変数があるのに、片方だけで説明することはできない。これこそ、典型的な「率」の落とし穴である。だが、これにはまると、とんでもない見当違いを引き起こすことがあるのである。同じように「高齢化率」も、率に惑わされて、誤った認識が広がっている。

ある専門家は「高齢化率の高い地方はこれから大変で、高齢化率の低い首都圏は今後も元気である」と話していた。一見もっともらしく聞こえるが、ここでも「絶対値の増減」という変数が抜け落ちていた。高齢者の絶対数の増減で見てみれば、実は東京や大阪といった高齢化率の低い都市こそが、これから最も厳しい事態を迎えることがわかる。国立社会保障・人口問題研究所の予測によると、首都圏1都3県では、2015年には10年前に比べて65歳以上は269万人、75歳以上は154万人も増える。率にして、それぞれ45%増と63%増という事態だ。

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高齢化率が低いほど高齢者は激増へ

高齢化とは、そもそも高齢者の絶対数の激増のことだ。にもかかわらず、「高齢化=高齢化率の上昇」という抽象化が行われたことで、誤解が生じている。爆発的な介護需要に対して、厳しい行政運営が迫られることになる。

また高齢化率を論拠に、都市と地方という「地域間格差」を問題視する議論が蔓延している。だが人口が流入する首都圏でも現役世代の減少が加速している。地域間格差といった問題は50歩百歩であり、むしろ日本人の加齢により、現役世代の減少と高齢者の激増という現象が日本中を襲っている。地域間格差ではなく、日本中の内需不振が、「不景気」の原因なのだ。