※本稿は、飯田史也『あなたの一生を支える 世界最高峰の学び』(日経BP)の一部を再編集したものです。
5月と6月の学年末試験は毎年修羅場
毎年、学年末試験が行われる5月と6月は、ケンブリッジの大学と街全体が、一番の緊張に包まれます。どの学部もどの学科も共通して、すべての試験は学年末に一度に行われます。
学生の観点からすれば、1年を通じて、学期ごとに少しずつ科目を分けて試験をしてくれた方が楽です。習ったことを忘れる前に、少しずつ試験をやってもらいたいと思うのは当然でしょう。
ところが、この学年末試験のやり方もまた、ケンブリッジ大学で長年続くしきたりのひとつで、誰も変えることのできない、不文律の掟になっています。
なぜこのようなしきたりになっているのでしょうか?
ここでは、ケンブリッジ大学の学年末試験の実情と、その背景について考えてみましょう。
学年末試験は「学びを加速するしかけ」
ケンブリッジ大学における学年末試験は、単なる卒業要件の一部ではなく、多くの要素を含むとても重要な「学びを加速するしかけ」です。
まずこの試験は、卒業資格に直結します。
ケンブリッジの入学試験はカレッジごとに実施され、各カレッジが合否を決めますが、卒業資格については大学全体が判断し、試験も大学が統一的に実施します。
この違いは一見些細なようですが、実際には大きな意味を持っています。
この試験は、学生の卒業を決めるだけではありません。
それ以上に、カレッジ間や教員間の緊張関係を促進する役割も果たしています。優秀な学生が多いカレッジは、試験結果で他のカレッジを上回ることで評価され、担当教員もその功績を称賛されます。
反対に、自分のカレッジから落第者が出れば、大きな問題として扱われます。
このようなしくみにより、教員たちは学生の学力向上のために1年を通じてあらゆる方法を模索し、試験対策に力を注ぎます。
試験は、学生にとっても学びの底力を引き出すための重要なツールです。試験がなければ得られない学びがあり、試験があることで学びの成果が飛躍的に高まることがあります。
一方で、試験の設計を誤れば、学びのチャンスが失われます。そのため、試験の構成や内容は慎重に考えられ、学生にとって最大限の効果を引き出せるよう設計されています。
ケンブリッジ大学の試験は、単に学生の学業成果を評価するだけではありません。教員たちの緊張感と意欲を高めるとともに、組織全体の体制やカリキュラムを形づくる重要な役割を担っています。試験というしくみは、学びを評価する手段であると同時に、教育の質を高めるための重要な原動力にもなるのです。

