安倍政権による憲法改正は、もはや不可能

贔屓筋は安倍政権の外交成果を強調する。首相自らアメリカ連邦議会や真珠湾で堂々と演説したし、オバマ前大統領を広島に呼び寄せた。ロシアのプーチン大統領とは何度も会って関係を深めたし、トランプ大統領には各国首脳の中では一番乗りで面会を果たした。一緒にゴルフをしたのも各国首脳では安倍首相が最初だ。しかし、就任当初から足元が揺らぎっぱなしのトランプ大統領と仲良くなって何かいいことがあるだろうか。むしろアメリカと仲良くなりすぎたために、北方領土問題は動かなくなってロシアと新しい関係を構築できていない。ヨーロッパとの関係もほとんど進捗していないし、中韓とは冷え込んだまま。政権発足当初は「最優先」としていた拉致問題はすっかり動きが途絶えて、北朝鮮との関係は極度に緊張している。つまり、外交的な成果はほとんど何もないのだ。

安倍首相のライフワークである憲法改正も、将棋で言えば詰んだに等しい。5月3日の憲法記念日、安倍首相は憲法改正を求める集会にビデオメッセージを寄せて「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と語った。憲法9条の1項、2項を維持したまま、第3項に自衛隊を明記する改憲を目指すという。

唐突すぎる提案に与野党双方で戸惑いが広がったが、これは完全な勇み足だろう。憲法改正の手順から言えば、まず国会議員の3分の2以上の賛意を得て、国会で憲法改正の発議をしなければならない。しかし、9条に第3項を加える安倍首相の提案ではまず与党の公明党が乗れない。公明党はもともと9条改正に反対だし、山口那津男代表は「憲法改正は政権の課題ではない」と再三述べている。仮に「与党ファースト」の公明党を脅して発議まで持っていったとしても、国民投票で過半数以上の賛成を得るのはきわめて難しい。“朝日新聞的戦後民主主義”に洗脳されてきた日本人の多くは9条改正最優先の改憲に疑いの目を向けるからだ。

自民党は「自衛隊は軍隊ではないから憲法9条に違反していない」と横車を押し続けてきたわけで、「合憲ならなぜ書き足す必要があるのか。今になって9条に自衛隊を明記するのは何か魂胆があるのでは」と勘ぐられても仕方ない。安倍首相が提案するような形で憲法改正の是非を問うても国民投票は十中八九通らない。そこで否決されたら当面は憲法改正に手を付けられなくなる。かといって解散総選挙となれば今の安倍政権では改憲議席の3分の2はまず獲得できない。つまり発議もできなくなる。どう転んでも、安倍政権による憲法改正は詰んでいるのだ。