彼らは、小売り大手ベストバイの人材部門担当幹部、ジョディ・トンプソンとカーリー・レスラーが、自分たちのROWE(Results-Oriented Work Environment――結果志向の労働環境)構想に対する支持をどのようにして勝ち取ったかを紹介している。

ベストバイには、会社にいることイコール仕事をしていることとみなす文化が根強かった。トンプソンとレスラーは、在社時間ではなく結果に注目することで、社員の疲労を緩和し、生産性を高められると確信していた。が、その構想をCEOのブラッド・アンダーソンに直接話すより、まず2人の事業部長を味方につけることにした。この事業部長たちは、それぞれの事業部でひそかにROWEプログラムを開始、他の部門にも広まっていったので、トンプソンとレスラーはその有効性についてデータを集めた。

2年後、このアイデアをアンダーソンに提案したとき、彼らはROWEが生産性を高めることを、データで証明することができた。アンダーソンはそのアイデアを受け入れ、全社で始めることに同意した。

利益……相手にとっての利益は強力な動機要因である。シェルとムーサは、スティーブ・ジョブズがコンピュータ・マニアに販売するため100枚のプリント基板を製作しようとしたとき、スティーブ・ウォズニアックをどのように説得して1000ドルを出資させたかを例に挙げる。ジョブズは出資してくれればそのカネを2倍にできると訴えた。だが、ウォズニアックは基板が売れるとは思わなかったので出資を断った。そこでジョブズは、別の利益――会社設立をもちかけた。ウォズニアックはそれに食いつき、アップルが設立されたのである。

コミュニケーション……コミュニケーションのズレによる障害は、きわめて広く見受けられる。誰かを説得しようとするときは、その人が好むコミュニケーション・チャネルに合わせることが大切なのだ。

ジョアン・ブラッドフォードは、マイクロソフトのオンライン・ネットワーク、MSNのオンライン広告部長として採用されたとき、それを思い知らされた。最初の数カ月、彼女はCEOのスティーブ・バルマーと自分の直属上司を説得し、広告売り上げ拡大のために営業チームの人員倍増を認めさせようとした。だが、訴えれば訴えるほど抵抗が大きくなる。当初、ビジョン型のチャネルで訴えていた彼女だが、周囲を見回し、マイクロソフトで好まれるコミュニケーションは、数字主体の合理型であることに気づいた。そこで図などのデータを使ったところ説得力が高まり、彼女はOKを勝ち取った。