男性は女性に比べ、交渉によって利益を得ようとする傾向が強いという。この差異を理解していない上司は、知らず知らずのうちに優秀な女性の可能性を潰しているかもしれないのだ。

採用時の小さな交渉が積み重なって大きな格差を生む

あなたが今の会社に採用されたとき、自分の給与の額を交渉して決めただろうか、それとも提示された額をそのまま受け入れただろうか?

これは、性別に大きく左右される。男性の場合は交渉して給与を決めた可能性が高く、女性の場合は最初に提示された額をそのまま受け入れた可能性が高いのだ。われわれの調査でも、また他の調査でも、男性は交渉によって自分の利益を推進する傾向が女性より高いという結果が出ている。これは、個人にとってはもちろん、組織にとっても重要な意味を持つ。交渉の男女格差が放置されれば、あっという間に給与や昇進の格差となり、社員の離職につながることになる。本稿は、管理職が職場のこの根深い問題に対処する一助になるはずだ。

女性は交渉を避けることで高い代償を払っている。給与だけでも、女性はたいてい何十万ドルものカネをつかみそこねているものだ。そして、女性が受け入れた金額と、交渉すれば獲得できる可能性があった金額との小さな開きは、キャリアの道筋を歩んでいく中で劇的に拡大するのである。

MBAを取って間もない30歳の2人の人物――一方は男性でもう一方は女性――が、年俸10万ドルで働かないかというオファーを受けたとしよう。男性は交渉によって年俸を11万1000ドルに押し上げ、それに対し女性は、交渉することなく10万ドルをそのまま受け入れた。2人が以後のキャリアを通じてまったく同じ3%の昇給を得たとしても、65歳で退職する頃には、年俸の差は3万953ドルに開いている。

しかも、交渉した男性は、退職までの35年間、毎年女性より多額の年俸を受け取ることになる。彼が年収のこの「上乗せ分」を年利5%で運用するとしたら、その最初の1万1000ドルが、退職時には160万ドルに増大しているのである。

女性が最初の給与交渉を避けることで失う金額は、とてつもなく大きいわけだ。しかも、これらの数字の算出にあたっては、ボーナス、ストックオプション、年金など、給与に連動する他の富はまったく勘定に入れられていない。加えて男性は、おそらく入社以後も、交渉によってより大幅な昇給やより多くの昇進を獲得し、交渉力の恩恵を拡大するだろう。

交渉を避けることで女性が犠牲にするものは金銭だけではない。似通った訓練を受け、似通ったスキルを持つ男性と女性が、似通った職務に採用されたとしよう。男性は入社後早い時点で、重要なプロジェクトに取り組むチームに参加するよう求められる。このチームに参加することで、組織内での注目度は高まり、貴重なリーダーシップの経験を積んで、新しいスキルを身につけることができる。彼の上司たちが再び重要なプロジェクトにスタッフを集めなければならなくなったとき、その男性は、当初似通った立場にあった、より控え目な女性より実質的なスキルの面でも優位に立っているだろう。しかも、彼がその後もキャリア開発の機会を女性より頻繁に要求するならば、それぞれの才能や能力に関係なく、男性のほうが組織の階段をはるかに速く上っていくことになる。