幸せになる近道は「非地位財」の追求

幸福について「持続性」という観点からもう少し考えてみましょう。

経済学者のロバート・フランクは周囲との比較で満足を得るものを「地位財」、他人との相対比較とは関係なく幸せが得られるものを「非地位財」と整理しました。「地位財」の具体例は、所得や貯蓄、役職などの社会的地位、家やクルマなどの物的財。一方の「非地位財」は、健康、自由、愛情などです。この2つの違いについて、心理学者のダニエル・ネトルは著書『目からウロコの幸福学』で、「幸福の持続性が異なる」と論じています(図4)。

図では「結婚」が両者の間にあります。これは「結婚」が、「他人に自慢できる配偶者」「家庭を持っているという社会的ステータス」という意味では地位財であり、「パートナーとの絆」「家族への無償の愛、つながり」という意味では非地位財だからです。

重要なのは、地位財による幸福は長続きしないのに対し、非地位財による幸福は長続きする、という点です。「少しでも年収を上げたい」は地位財の獲得を目指す志向ですが、それでは幸福が持続しません。

それなのに、なぜ人はついつい地位財の獲得に走ってしまう――目の前にぶらさがった具体的な餌に飛びついてしまう――のでしょうか。フランクは、人間は自然淘汰に勝ち残って進化してきた生物だから、と説明しました。子孫を残すために重要なのは「競争に打ち勝つこと」。だから人間は、競争に勝つと嬉しくなるようにできている。そのため、他人との比較優位に立てる「地位財の獲得」を目指してしまう。

しかし現代社会では、生存競争にそこまで躍起になる必要はありません。平均年収を超える程度までは「地位財」を目指し、それ以降は幸福の持続性が高い「非地位財」を追求するのが、幸福をつかむ近道かもしれません。