87個の質問を「寄与度」で並べ替え
「地位財」「非地位財」の分類を踏まえたうえで、幸せになるためにはどんな要素が重要なのでしょうか。そのヒントとなりそうなのが、私が研究している「幸せの因子分析」です。
因子分析とは、たくさんのデータの間の関係を解析する「多変量解析」のひとつです。物事の要因をいくつか求め、そうした複数の要因がその物事にそれぞれどれくらい寄与しているかを数値化します。私の研究ではインターネットを通じて集めた1500人に、29項目・87個の質問に答えてもらうことで、自分が幸せだと感じるのに大きく寄与している心的要因をリストアップし、大きく4つに分類しました(図5)。当然、これらの大半が「非地位財」に関連しています。
第1因子は「やってみよう!」因子。自己実現と成長の因子です。自分の強みがあるかどうか、そして強みを社会で活かしているかどうか、そんな自分は「なりたかった自分」であるかどうか、そして、よりよい自分になるために努力してきたかどうか、といったような項目が並んでいます。大きな目標を持っていること、大きな目標と目前の目標が一致していること、そして、そのために学習・成長しようとしていることが幸せに寄与しているのです。
第2因子は「ありがとう!」因子。つながりと感謝の因子です。第1因子が自己実現や成長など自分に向かう幸せだったのに対し、第2因子は他人に向かう幸せだといえます。
また第2因子については、興味深い発見がありました。実は「友達(親密な他者)の人数が多いかどうか」自体は、幸福にあまり関係しません。関係が深いのは「多様な友達がいること」だったのです。多数ではなく多様。つまり、いろいろな職業、年齢、性格、国籍の友達がいる人のほうが、そうでない人よりも幸せを感じられるのです。毎日を職場と家庭の往復に終わらせている人は、幸せになりづらいのです。
第3因子は「なんとかなる!」因子。前向きと楽観の因子です。「楽観性」や「気持ちの切り替え」は先天的な気質だと思われるかもしれませんが、私の経験からは、そうとも言い切れません。私は子どもの頃は内向的・悲観的・神経質でしたが、今ではむしろ真逆の気質です。これは上京をきっかけに、もっと明るく、ポジティブで、積極的な人間になろうと決意し、サークルや部活動、バンドなどに精力的に参加したからだと思います。最初は疲れましたが、確実に性格が変わりました。
米国で盛んな「ポジティブ心理学」によれば、物事を前向きに解釈する人、外交的な人ほど幸福を感じやすく、反対にネガティブな態度を取り続けている人は幸福を感じづらくなることがわかっています。主観的に幸福な人は、そうでない人に比べて、病気になりにくく、寿命が長く、収入が多いというのです。気質や性格は、行動で変えられます。悲観するのは端的に損です。
第4因子は「あなたらしく!」因子。独立とマイペースの因子です。これは「地位財」に目がいくのを抑えるという点で重要です。たとえば「自己実現と成長」を目指すとき、「あいつより出世する」というのは間違い。人の目を気にせず、自分のペースで努力することが幸せを長続きさせるコツです。