住んでいる地域によっても幸福度には差が出ます。2014年、私は博報堂と共同で、日本国内の地域別の幸福度を測定する「地域しあわせ風土調査」を行いました(図9)。その結果は驚くべきものでした。ベスト3は沖縄、鹿児島、熊本。九州・沖縄地方の幸福度が高く、全体的には「西高東低」となりました。沖縄県の平均年収は全国の都道府県でも最下位。失業率も5%近くと全国最悪です。所得と主観的幸福度が比例しないことがわかります。

一方、ワースト3は群馬、福島、新潟でした。関東近郊の群馬と福島は、東京と物質的な面で比較してしまう人が多いのかもしれません。

次に、男女の幸福度の差です。一般的に世界中多くの国では、男性より女性のほうが、主観的幸福度が高い傾向にありますが、日本はそれが特に顕著。日本は女性が男性よりずっと幸せな国なのです。なお女性が感じる幸福度は、「未婚」より「既婚」、「子どもなし」より「子どもあり」、ありの場合は「3人」が最も幸せという結果でした。

「貧乏子沢山」はなぜ幸せなのか

こうした結果は、これまで見てきた「地位財」と「非地位財」、「幸せの4つの因子」という考察と整合性があります。つまり、「結婚や子どもの存在は主観的幸福度に比例する」と考えられます。「家族をつくる」は前述した、多様な人とつながりを持つ幸せに含まれるアクションのひとつです。

がむしゃらに働いて、出世を目指す、そういう生き方は「地位財」を増やすだけで、その幸福は持続しません。仕事はそこそこでも、家族や友人との時間をしっかり持てているほうが、「非地位財」を増やせるはずです。極論すれば、「可処分所得の多いお一人様」よりも、「貧乏子沢山」のほうが、幸せになりやすい。そのことは数々のデータが示している通りです。

もちろん、配偶者や子どもは「愛情を注げる他者とのつながり」を担保する存在のひとつにすぎません。独身であっても、支え合う仲間や信頼できる友人が相当数いれば、幸せな人生を過ごすことは十分に可能なはずです。

誤解してほしくないのですが、私は「結婚して子どもをつくらなければ幸せになれない」とか「沖縄の人のように暮らすのが一番だ」と主張したいわけではありません。大切なのは、幸福のメカニズムを知り、今の暮らしを振り返ることです。なぜ既婚者や沖縄の人の主観的幸福度が高いのか。その理由を考えることが重要だと思います。

これまで日本は、欧米型の資本主義を手本にしてきました。そのひとつの到達点は「カネで買えないものはない」というライフスタイルです。しかし、それで高められるのは「生活満足度」であって、「幸福度」ではありませんでした。いま地方への「Uターン」に注目が集まっているのも、そうした価値観からの揺り戻しでしょう。だからこそ、世界中で「幸福学」が流行しつつあるのです。私の研究が、みなさんの働き方や暮らし方を見直すきっかけになれば嬉しく思います。

 
前野隆司
慶應義塾大学大学院 教授。1962年生まれ。86年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、キヤノン入社。カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。11年よりSDM 研究科委員長。博士(工学)。『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』など著書多数。
▼編集部おすすめの関連記事
東京より幸せ「地方の給与1位企業」20社
(構成=稲田豊史)