若き新大統領が誕生したフランス。かつてフランスでは「豊かさ」や「幸せ」を、GDPとは違う指標で計ろうとしたことがある。挑んだのはノーベル賞学者のスティグリッツらだ。日常における仕事の価値や人間の感情など、数値化の難しいものを計るには、どうすればいいのだろうか。

GDPでは表せない、人間感覚の経済指標

結果次第では、また世界が大きく揺らぐのではないかとされたフランスの大統領選挙で、エマニュエル・マクロン氏が選出された。1848年にナポレオン3世が40歳で大統領に就任したのを更新し、39歳はフランス史上最年少の国家リーダーの誕生だ。マクロン氏は、「落ち込んだ経済を再生し、共和国を守る」としている。

かつてフランスでは、ニコラ・サルコジが大統領だった時代に、GDPに代わる新しい経済指標を模索していた。“幸せの価値”を測ろうとして招集したのが「経済指数と社会進歩を計測する委員会」、通称「スティグリッツ委員会」。ノーベル賞を受賞したジョセフ・スティグリッツを始めとする経済学者たちを集め、新しい数値的な指標を作るための報告書を作成した。

私たちは数値で示された指標には納得しやすく、信用しやすい。しかし、“豊かさ”などの曖昧な感覚を数値にするのは極めて難しい。そこでスティグリッツらは、指標に必要になるだろう要素を挙げていった。そこには、数字では割り切れない個人の感覚に頼るものも多くみられる。

幸せの価値や豊かさなど、数字で測れそうもない曖昧なものを測ろうとする目録の要素とは、どのようなものだろうか。

経済学者が計る豊かさ、心理学者の自己実現の幸せ

スティグリッツらが「経済指数と社会進歩を“計測する”」ために加えるべきだとしたのは、次のような内容だった。

・経済の評価・健康・教育・安全など、あらゆる要素を含めること。
・所得格差・所属可能性が与える影響を測る方法を考案すること。
・次世代に残る価値も現在の経済評価に含めること……など。

特に社会進歩に関しては、

(1)健康状態や教育、個人の行動
(2)主観(実際のインフレではなく感覚的なインフレ)
(3)不平等の度合い

といった、経済的な数字以外の“主観”“感覚的なこと”を含めている。

こうしてスティグリッツは、GDP拡大だけを目指せば生活の質が悪くなる可能性を指摘したものの、結局は数値指標の算出法について最終的な明言はしなかった。けれども、数字では割り切れない人の感覚を含めた上で数値化することが大切だということは伝わるだろう。その人がどう感じたか、欲求がどの程度満たされたかも含めた経済指標にしようというわけだ。

ではここで、数値化が難しいであろう“人の欲求”について考えてみよう。