寝る間も惜しんで働くことを美徳とする人は多い。そういう人にとって、寝ている時間は「ムダ」以外何者でもないかもしれない。しかし最近の研究では、眠ることで脳の情報処理や記憶の定着が進むこと、寝不足だとコミュニケーション能力が大幅に低下することが分かってきた。限られた時間で“快眠”するには、どうしたら良いのだろうか?

85歳の寿命のうち、人は28年眠っている!?

あなたの毎日の睡眠時間はどのくらいだろう? まだ眠いのに通勤電車にゆられ、オフィスで睡魔と戦い、会話すらも面倒だったりはしないだろうか。

2015年のNHK放送文化研究所の調査によると、日本人の平均睡眠時間は、約7時間15分。思ったより長い気もするが、あくまでも平均値にすぎない。地域や年齢などによっても差があり、都心部の男性は少ない傾向にあるようだ。

私たちが1日およそ7時間15分眠り、85歳まで生きると仮定して、ざっと計算してみよう。すると人生の約33パーセント、なんと28年近く寝ていることになるのだ。

数字だけを見ると、そんなに長い時間眠っているのは、なんだかムダな気もしてくる。少しくらい寝不足になろうとも、仕事をこなし、仲間と飲みに行き、好きな音楽を聞きながら本でも読むほうが人生楽しめて有意義そうだ。

それにも関わらず、28年もの年月を眠りに費やして、私たちは何を得ているのだろう?

もちろん、体を横にすれば疲労は回復し、頭も休まる。しかし、眠りの目的はエネルギーの温存だけではなさそうだ。脳の睡眠サイクルを研究する神経科学者ラッセル・フォスター氏によると、眠っている間こそ脳は活発に活動するという。眠っている間だけ活発になる脳内の遺伝子があり、睡眠中だけ代謝経路に結びつこうとする。

諸説あるのだが、眠ることではっきりと得られるのは「脳の情報処理」「記憶の定着」の力だという。

「たとえば、ただ単語を思い出すよりも、複雑な問題への新しい解決策を見つけ出すといった能力が一晩眠ることで飛躍的に高まり、創造的になれます」とフォスター氏は話している。

さらに、よい眠りはコミュニケーション能力も高めてくれる。寝不足では注意力や判断力が落ち、共感性が乏しくなり、思考が鈍ってくる。情報処理力や認知力が落ちているから、コミュニケーション能力がいちじるしく低下してしまうのだ。

寝不足が招く認知能力への影響について、カリフォルニア大学の興味深い実験がある。