デフレ脱却遠のき、アベノミクスは末期症状
しかし、日商の三村明夫会頭は最低賃金について「近年は景気や経営状況と乖離した引き上げが行われている」と、中小企業の経営環境を無視した官製圧力に反発を強める。ただ、消費税率10%への増税を19年10月に延期してまでデフレ脱却実現をコミットメントした安倍首相は背に腹は代えられない。なにしろ、リセットを繰り返しつつもアベノミクスは4年10カ月を超えてほぼ末期症状に陥っており、デフレ脱却は遠のくばかりだからだ。さらに、ドナルド・トランプ次期米大統領はアベノミクスが一丁目一番地に掲げる環太平洋経済連携協定(TPP)を反故にする可能性も濃厚であり、成長戦略として賃上げに頼るよりない。
実際、日本銀行の黒田東彦総裁は11月1日の金融政策決定会合後の記者会見で、「デフレマインドは相当強く、払拭に相当な時間を要している」とし、2%の物価上昇目標達成を「17年度中」から「18年ごろ」に先送りした。物価目標の先送りは昨春以降5度目で、黒田総裁による異次元の金融政策頼みのデフレ脱却は限界となりつつあることを物語る。
そのうえで、日銀は同日発表した経済・物価情勢の展望(展望レポート)で、「来春の賃金改定交渉に向けた動きが注目される」と記し、安倍政権同様にデフレ脱却への道筋を付けるには民間に賃上げが避けられないとの認識で歩調を合わせた。安倍首相が盛んに強調する「アベノミクスの果実」も、足踏みする景気を前に萎む一方だ。
財務省が同日発表した16年度上半期(4~9月期)の税収実績(一般会計ベース)は前年同期実績を7.8%割り込み、上半期としては7年ぶりの減収に追い込まれた。企業収益の悪化で今後は法人税収の伸びも期待できず、デフレ脱却に向けて政府・日銀の期待は勢い来春闘での賃上げに傾く。
連合は10月20日、来春闘で基本給を一律に上げるベースアップ(ベア)の要求を今年と同じ「2%程度」とする方針を決め、政府・日銀と足並みをそろえる。半面、大企業が中心の経団連にはトランプ大統領就任で不確実性が強まる経済情勢を反映し、賃上げに対する過度な期待を牽制する意見も多い。その意味で、賃上げがデフレ脱却への切り札になり得ず、4度目の官製賃上げは完全に行き詰まりかねない危うさが漂う。