2016年2月に導入されたマイナス金利は、金融機関が日銀に資金を預ける当座預金の金利をマイナスに引き下げる金融政策です。このマイナス金利はどんどん進むのでしょうか? 政策導入の背景から、今後起こりうる事態と私たちがとるべき対応を、セゾン投信社長・中野晴啓さんと一緒に考えます。

マイナス金利が導入された背景とは?

いよいよ日本でマイナス金利時代が始まりました。金利がマイナスということは、今までのお金の常識がことごとく覆ることを意味します。

そもそもお金(貨幣)とは、価値を保存する役割があるものですが、マイナス金利が前提となれば、お金はその価値を日々減耗させていくことになります。これを前回の記事「マイナス金利発動! 預金を現金に換える行動は正しい?」では、“お金が腐る時代の到来”と表現したわけです。

さて今回は、マイナス金利導入の背景として、日銀がマイナス金利政策というメガトン級の劇薬を投与せざるを得なくなったアベノミクス以降について、まずはおさらいしておきましょう。

第2次安倍内閣が発足したのは2012年末でした。そこからアベノミクス“第1の矢”と言われる量的金融緩和政策の効果が金融市場に先取りして織り込まれ、株式市場が急上昇に転ずるとともに、為替も急速に円安方向へと水準訂正されました。これは将来に向けてのインフレ予想が高まり、実体経済がインフレ前提の活発な経済活動へと動き出すことを見越すという、政策効果への期待を反映したマーケットのポジティブな反応だったのです。

事実、それから国内景気は明らかに上向き、企業業績も大きく改善傾向を示したのですが、2014年4月、消費税が5%から8%へ増税されました。景気回復へと世の中の気分も盛り上がってきたところで、経済活動にとっては負の影響しか及ぼさない消費増税を行ったがゆえに、それまでの高揚感は完全に損なわれてしまったのです。

クルマの運転に例えれば、景気拡大へとつなげるためのアクセルを全開にしながら、同時に景気を冷やす効果となる急ブレーキを一気に踏み込んでしまったことにより、クルマはコントロール力を失ってスピンしてしまったわけです。政府や増税支持派の学者たちからはこうした停滞は一時的と言われてきましたが、その後も冷めた気分から戻ることができず、消費税増税の後遺症が日本経済にはずっと残ったまま事ここに至り、日銀が業を煮やしてマイナス金利政策を導入したのです。

なぜ日銀はマイナス金利を導入したのでしょうか。まずはその背景を理解し、次に起こるべき事態について考えてみましょう。