こけ脅しは交渉におけるあなたの信用を将来にわたって大きく損なうことがある。脅しをかけるときは、それを実行する覚悟があることを相手にわからせなくてはならない。どうすれば「本気」が伝わるのか。

典型的な「チキンレース」では、2人のドライバーが衝突寸前まで互いに相手に向かって猛スピードで車を走らせる。先にコースを外れて衝突を避けたほうが負け、勇敢にもコースを突き進んだほうが勝ちとなる。当然、どちらのドライバーもコースを突き進んだら、2人は衝突して死ぬことになる。

チキンレースで勝つにはどうすればよいか。1つの方法は、レースの前にいかにも度胸がありそうに振る舞うことだ。命知らずだという印象を与えるために、向こう見ずな行動をとってもいいだろう。だが、その脅しは、レース開始後は効果がないかもしれない。

では、この作戦はどうだろう。車が互いに相手に向かって走り始めたら、自分の車のハンドルを引き抜いて、相手に確実に見えるように窓から投げ捨てるのだ。ばかげている? たしかにそうだろう。だが、あなたの脅しはこれで完全に信憑性のあるものになる。たとえ変えたくても、あなたはコースを変えられない。負けるか死ぬかを決めるのは相手のほうだ。勝利の確率はあなたに有利になる。

交渉はしばしばチキンレースに似ている。相手の行動や考えを変えさせようとして、双方が脅しをかける。もっといいオファーを出してくれなければ他の会社と取引するとか、自分の苦情に対処してくれなければ法的措置をとるといった脅しである。ネゴシエーターの成功は、そうした脅しに信憑性があるか否かにかかっている。

脅しをかける側は、必ず次のようなジレンマにぶつかる。あなたの脅しは、それを実行することがあなたの最善の利益になると相手が信じて、初めて効果を持つ。だが、あなたに決裂する覚悟があることが明白なら、そもそも脅しをかける必要などない。

このパラドックスが示すように、脅しの信憑性はつねに疑いの目で見られる。以下に、脅しをより信憑性のあるものにする6つの方法を紹介しよう。

(1)脅しを実行しないコストを増大させる

あなたが、自分の会社にとって大きな価値のある別の会社を買収するために株式公開買い付け(TOB)を行うことを考えているとしよう。あなたの唯一の不安は、自分のTOBが最大の競争相手の参戦を招くことだ。このTOB合戦に負けたら、あなたの会社の株価は間違いなく下落する。勝ったとしても、TOB合戦で買い付け価格がはね上がり、買収の価値がなくなる。つまり、あなたはTOBを行いたいのだが、それには競争相手が参戦しないことが前提条件になる。

噂では、競争相手はあなたのTOBに対抗するつもりだといわれている。しかし、それはあなたをビビらせて手を引かせるための戦略的リークであり、その脅しには信憑性がないとあなたは判断し、TOBに踏み切ることにした。