経営においては、絶対的善でもなく、絶対的悪でもない、「灰色」の判断を下さなくてはならない局面がある。そんな困難な場面で、結論を出すための指針を紹介する。

「自社の責任の可能性」を公表すべきか否か

私は数年前に『Inc.』誌に寄稿した記事で、実際の出来事に基づいて、ビジネスで厄介な倫理的決断を下すことの難しさの真髄を示すジレンマを紹介した。

航空機エンジンの修理を行っている年商2000万ドルの会社のCEOが、航空会社からファクスを受け取った。そこには、彼の会社がエンジン部品を修理した8機のジェット機がタービンの不具合のため緊急着陸を余儀なくされたと書かれていた。「貴社が修理した部品が問題を引き起こした」と、航空会社は主張していた。1時間もしないうちに今度は電話が入って、もう1機が同じ理由で緊急着陸したと告げられた。その1時間後に、また電話が入った。全部で11機が、航空会社の主張によると、この会社が修理した部品のせいで緊急着陸したのだった。

CEOが最初の知らせを受け取ったときには、連邦航空局(FAA)にはすでに通報がなされていた。だが、FAAはこの会社に閉鎖を命じるまでの介入はしていなかった。また、驚くべきことに、この会社の名前はマスコミに嗅ぎつけられていなかった。もしこのことが銀行に知れたら融資を引き揚げられるかもしれないとCEOは危惧した。しかし、FAAが調査を始めているのだから、詳しいことがわかるまでじっと待つしか方法がないと、彼は自分に言い聞かせた。

ところが、間の悪いことに、この会社は年次監査の最中だった。監査プロセスの一環として、CFO(最高財務責任者)も兼ねているCEOは、会社の財務にマイナスの影響を及ぼす可能性が高い重要な事態について、監査人はすべて知らされていると保証する書類に署名しなければならなかった。

監査報告書で本当のことを述べたら、会社の財務が崩壊する恐れがあった。CEOによると、「この業界には、社員の薬物やアルコールの摂取についてはきわめて厳しい倫理規定があるが、このような情報の報告をどうすべきかについては何の規定もない」のだった。

そのため、監査書類に署名する時期が迫るなか、彼は、正確な情報がまだ十分得られていないにもかかわらず、エンジン故障についての情報を開示すべきかどうかを判断しようとしていた。彼はどうすべきだったのか。その情報を開示して、何百人もの社員の生活と自身の出資金を危険にさらす道を選ぶべきか、それとも、さらに多くの情報が得られるまで沈黙を守るべきか……。

これほど大きな規模でこうした状況に直面する人はほとんどいないものの、この例は経営者が下さねばならない倫理的意味を持つ決断をよく表している。

しかし、正しい決断を下すのに役立つアドバイスがたくさんある。ピーター・ドラッカーは「鏡テスト」──すなわち「私は朝、髭を剃るとき(あるいは口紅を塗るとき)、自分がどのような人間に見えることを望んでいるか」と自問することを勧めている。