ロッキード・マーティン社の前CEO、ノーマン・オーガスティンは、取るべき行動を決めるために次の4つの問いを考えてみるよう勧めている。
(1)それは合法か?
(2)誰かが自分に対してそれを行ったら、それをフェアだと思うか?
(3)それが自分の郷里の新聞の一面に載ったら、うれしいか?
(4)自分がそれを行うのを母親に見てもらいたいか?
「すべてに『イエス』であれば、あなたが取ろうとしている行動は十中八九、倫理的だ」とオーガスティンは言う。
コネチカット州のビジネス倫理コンサルタントで、かつてカミンズ・エンジン社の企業責任担当取締役を務めていたマイケル・リオンは、自著『The Responsible Manager: Practical Strategies for Ethical Decision Making(責任ある経営者:倫理的決定のための実践的戦略)』(1990年)で、6つの問いからなる「倫理的決定のためのガイドライン」を示している。
前述のCEOの下した決断がこの枠組みにどのようにおさまるかを見ていこう。
(1)これがなぜ自分を悩ませているのか
このCEOは明らかに、この情報を開示したら、話が外に漏れた場合に自社が破滅的な影響をこうむることになるのを心配していた。
(2)ほかの誰に重大な関係があるか
この話が外に漏れたら、社員が職を失う恐れがあり、同社の株主が投資金を失うおそれがあった。
(3)それは自分の責任か
この問いに答えるにあたっては、CEOはFAAの調査に頼り、何が起きたのかを突きとめるのはFAAの責任だと断定することができた。
(4)倫理的な気がかりは何か
法的観点からは、FAAに知らせることが必要だったが、FAAはすでに知っていた。公正さとダメージの観点からは、CEOの最大の関心は、自社の責任ではないかもしれない出来事のために、会社や社員の職に壊滅的打撃を与えないようにすることにあった。
(5)ほかの人々はどう考えているか
CEOは自社の弁護士と取締役会にアドバイスを求めた。
(6)自分自身に正直に行動しているか
これはドラッカーの「鏡テスト」と相通ずるものだ。「私はエンジンについて何を知っているか」とCEOは考えた。そして、「ビジネスマンとして、私はこの問題を自分の生き残りの問題として考えている」ことを確認した。
結局、CEOはこの情報を監査人に伝えないことにして、監査書類に署名した。FAAはやがて、このエンジン・トラブルが誰の責任かを突きとめるのは不可能だという結論を出した。また、この件で同社の名前がマスコミに出ることもなかった。