正直に言うと、なぜ今頃になって本書のような本が出版されるのか、やや不思議に思っている。しかし、多くの新刊書の中で手はおのずとこの本を取った。なぜかと言うと、田中角栄氏に意外なところで親近感を持っているからだ。
1960~70年代の中国の文化大革命時代、16歳の私は上海から屯田兵のように当時の中ソ国境にある黒竜江の畔の綏濱(スイビン)というところに強制移住させられた。冬になると、川が凍結して川向こうの町へ車で行ける。仕事の関係で時々、近くの松花江の向こう側にある富錦(フージン)という町を訪れたことがあった。
のちに上海の大学に入り、日本語を専攻するようになったが、日本語を勉強するかたわら、東西の政治家や文学者の伝記を乱読した。その中に、田中氏に関する書物も入っていた。徴兵された21歳の田中氏が富錦に配属されたといった記載を目にしたとき、自分の「下放」(農村への強制移住)時代を思い出した。中国東北部の冬の寒さなどについての田中氏の回想に、同じ厳しい自然のなかで多感な青春期を過ごした私は理由もなく親近感を覚えた。
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