伊那食品は中央アルプスと南アルプスのはざま、伊那市に本社を置いている。寒天のトップメーカーで、シェアは国内で80%、世界でも15%を占めている。同社は1958年の創業以来、48年間連続で増収増益を達成した優良企業だが、それは寒天の用途を食用以外にも広めたからだろう。細菌を培養するための培地、医薬品の原料といった分野をすすんで開発したのは伊那食品だ。

年間におよそ24万人もの人々が同社の開放型庭園(伊那市)を利用しているという。

年間におよそ24万人もの人々が同社の開放型庭園(伊那市)を利用しているという。

同社は毎朝、朝礼を本社玄関前で行っている。敷地の環境整備に汗を流した後、約400人の社員は屋外に整列する。雨や雪にならない限り、気温が零下になる冬季でさえ朝礼は外だ。

内容はシンプルそのもの。朝のあいさつ、日替わりの3分間スピーチ、業務連絡、ラジオ体操の4つで、朝礼自体は15分で終わる。気持ちがいいのはラジオ体操である。南アルプスの空気を胸いっぱい深呼吸すると、体全体が清浄になる。

また、朝礼を行う環境がいい。3万坪の敷地は国立公園のようにきちんと整備されている。その大半は「かんてんぱぱガーデン」と呼ばれる庭園で、アカマツの林が美しい。春ともなればカタクリ、ミズバショウといった山野の草花が花を開かせ、夏は新緑、秋は紅葉だ。園内には寒天レストラン、そば処、地下水を無料で汲むことのできる水汲み場が点在し誰でも利用できる。

「社是は『いい会社をつくりましょう』です。当社は社員を幸せにし、環境整備、雇用、納税、メセナなどさまざまな分野で社会に貢献します」

広報室長の丸山勝治氏はそう言った。創業以来、リストラをせず、社員旅行は39年前から海外へ行っている。また、外注企業の商品を値切ったり、いじめたりはしない。そして、地域社会のために金を惜しまない。社員は会社を誇りに思っているから、朝礼に出席する様子も実に楽しそうだ。

(木下徳康=撮影)