伊那食品の始業は午前8時20分。朝礼もその時間に始まる。しかし、社員たちは始業の少なくとも30分前には集まり、3万坪の敷地全体を清掃している。朝礼の前に掃除をする会社はいくつもあるが、それは本社近くの道路を掃いたり、ごみを集めたりする程度だ。それに比べると、伊那食品の場合は過酷というか本格的な環境整備である。ほうきやちりとりといった装備では心もとないから、ガソリンエンジンで動く草刈り機、電動式の落ち葉集め機、小型のブルドーザーに似た「スイーパー」といった造園会社が使うような機器が登場する。
そういった完全装備で毎朝、30分以上も社員が清掃を行うのだ。広い敷地ではあるけれど、業者に任せることをせず、すべて自分たちで行う。
環境整備の後に朝礼が行われるが、社員たちは十分、体を動かしているので、眠そうな人はひとりもいない。日替わりで社員が行う3分間スピーチの声も元気いっぱいだし、ラジオ体操では全員の姿がぴたっと決まる。
「継続ですよ、継続。創業の頃からずっと続けているから、環境整備も朝礼も生活のリズムになっているのです」
現会長の塚越寛氏は言う。
「会社が永続することは社員や社会への貢献になります。永続するためには周囲の好意が必要です。あそこはいい会社だね、と思ってもらわなくてはなりません。庭園を開放し、毎朝、環境整備をやっているのもそのためです」
塚越会長は地方の弱小寒天メーカーをトヨタの幹部が見学に訪れるまでの優良企業に育て上げた。その成長の根本にあるのが「継続する精神」だ。塚越会長は会社をつぶすことなく、毎年わずかずつ成長させていくという経営における名人芸を完成させた。そんな彼は「朝礼を欠かしてはいけない」と言っている。朝礼の継続が会社を成長させるのだ。
(木下徳康=撮影)