三越三越日本橋本店のカスタマーサービス部では元日を除いて毎日、朝礼を行っている。朝礼の主な目的は正しい姿勢とお辞儀を学ぶことだが、ほかにもふたつメリットがあるという。
「店舗に来て、身じたくを整え、姿勢を正し、お辞儀の基礎を学ぶことで、今日も1日がんばろうという気になる。また、もうひとつはメンバーの体調管理です。お辞儀する様子がぎこちない部員がいると、あれ、今日はどこか体調が悪いのかなと思う。そんな場合は意識的に声をかけるようにしています」(カスタマーサービス部の安藤友紀さん)
朝礼では姿勢を正しく保ったまま、2種類のお辞儀を行う。ひとつは「いらっしゃいませ」のお辞儀で、上半身を傾ける角度は30度だ。また、「ありがとうございました」のお辞儀は45度。どちらの場合もすぐに頭を上げるのでなく、下げたときにいったん動作を止めるのがコツである。
「お辞儀は頭をちょこんと下げるだけではダメ。上半身を傾けて行います。また、正しい姿勢も美しいお辞儀も、自分の動作を意識することが大事。日々、自分自身の動作に関心を持つと、それだけで姿勢もよくなるし、お辞儀もきれいに見えます」(安藤さん)
安藤さんをはじめ、カスタマーサービス部員のお辞儀は見事である。優雅で、気品がある。しかし、そんなお辞儀ができるようになるには彼女たちのように毎日、訓練しないとダメだ。
最後に、私は今回の取材で、三越における接客作法の極意を見つけた。三越の社員はバックヤードから売り場に入る際、必ず立ち止まって一礼する。売り場からバックヤードに下がるときも同じように頭を下げる。その行為は売り場と客に対する敬意であり、社長も新入社員も全員、確実に励行しているのだ。三越社員のお辞儀が美しく見えるのは客に対する感謝の念が表れているからだろう。
(尾関裕士=撮影)