新センター試験の成否が日本の英語教育を左右する

三宅義和・イーオン社長

【三宅】現在、大学受験の改革については、中央教育審議会高大接続部会で審議が続いており、現行のセンター試験を廃止し、新しい仕組みを模索中です。中でも英語は読む・書く・聞く・話すという4技能測定に舵をきろうとしています。私学などの個別入学試験では、すでに先行して英語検定試験などを活用した入試を導入し、受験者数を増やしている大学も出ています。

先生は、大学関係者や試験団体関係者とは違う民間の立場で、文科省の「英語教育の在り方に関する有識者会議」や「英語力評価及び入学者選抜における英語の資格・検定試験の活用促進に関する連絡協議会」などの委員も歴任されています。今回の大学入試改革で目指している英語科目における変更意図を簡単に説明していただけますか。

【安河内】まず、この改革の背景ですが、これは日本だけでなく世界の動きとも関連しています。世界のトップ大学の就学要件としては、現在、原則として英語4技能テストの評価しか認められません。つまり、世界では4技能の試験以外は英語力全体を測るものさしとしては信頼性がないと考えられているということです。なのに、日本では、2技能の試験で英語力が測定できるという、世界では通用しない考え方がまだ残っています。2技能どころか、大学入試では1技能だけの出題すら多いのが現状です。

そのように4技能のバランスの取れた指導を求めている学習指導要領とかけ離れた評価が、巨大なインパクトをもつ大学受験において行われてきたのです。けれども、指導と評価は一体化して行う必要があります。特に日本のような「外国語としての英語」を学習する環境においては、テストの与えるウォッシュバック効果は、指導方法自体をひっくり返してしまうほど大きな影響力を持っています。せっかく4技能の指導をしようとしても、テストによってそれが2技能以下の教育へ戻されてしまう場合が多々あります。

そこで、大学入試をきちんと指導要領に準拠した評価、そして世界の大学で求められているのと同じ評価に変えるべきだというのが、今回の大学入試改革の背景なんです。多くの大学の先生方もそのことには賛同されています。そして、入試改革に向けて学内調整に努力されています。組織が大きければ大きいほど、調整に時間はかかりますが、入試が大学のグローバル化の足を引っ張っているのは、ほぼ共通の認識です。なので、大学側もゆっくりではありますが、入試を変えつつあるのです。大学だって、早く世界標準の「4技能試験」に変更したいわけです。社会人教育、大学教育、高校教育、中学教育。その間にある高校受験、大学受験の評価と指導を一体化していくというのは当然のことでしょう。

例えば、上智大学では300人を超える学生を、4技能試験TEAPを利用した入試で受け入れています。また、早稲田大学では、2つの学部で、120人の定員を、各種4技能試験を活用して受け入れています。立教大学も全学部に4技能試験の入り口ができました。私立・国立を問わず、いくつもの大学がこうした動きに続き始めました。このままいけば、数年間で、ガラパゴス的な受験英語を勉強しなくても、4技能の「ホンモノの英語」を勉強すれば、志望校に合格することができるという、大きな風穴があくと思います。

もう1つの大きな動きは、2019年度に終了するセンター試験に代わる新テストの動向です。現在、実現の可能性について議論が続いていますが、こちらも、4技能均等評価のテストとすることを目指して調整が進行中です。5年後なのか、10年後なのか、20年後なのかはわかりませんが、日本の大学入試や社会人の英語力の評価も、最終的には世界標準の4技能評価に向かうのは不可避だと思います。いまは、その動きに冷や水をかけるのか、拍車をかけるのかという重要な岐路に立っていると認識すべきでしょう。この鍵を握っているのが、2020年の新センター試験です。

私は3つの分かれ道があると思います。すなわち、最高のケース、中間のケース、最悪のケースです。最高のケースというのは、4技能が均等配点になる。中途半端なら、4技能が不均衡配点になるということですね。最悪の場合はライティング、スピーキングのテストが実施されず、現行の2技能評価が続く。こうなると、英語のアセスメントにおいて、日本は世界から完全に孤立します。本当に最悪のケースです。