欧州連合構想を打ち出したのは米国旅行の後

同じ日、離脱派の運動組織「Vote Leave(離脱に一票を)」を率いるボリス・ジョンソン下院議員も演説を披露した。この前週までロンドン市長だったジョンソンは、EU離脱が決定的となったいま、辞意を表明したキャメロン首相を引き継ぐ最有力候補と言われている。

キャメロンとジョンソンは因縁のライバルだ。どちらも裕福な家庭の子女が通う名門イートン校から、オックスフォード大学に進学。ジョンソンの方が2歳年上で、大学時代から政治には強い関心を示し、大学の弁論部の部長にもなっている。一方のキャメロンは学生当時まったく政治に関心を見せず、きわめて優秀な成績で大学を卒業した。卒業後はキャメロンもジョンソンも保守党下院議員となり、キャメロンは2005年に党首に就任。2010年から当初は第二野党、自由民主党との連立政権で、2015年からは保守党単独政権での首相になっている。

どちらもチャーチルに並々ならぬ愛着と敬意を抱いているところが共通している。チャーチルの没後50周年となった昨年、記念イベントでスピーチをするのはキャメロンだった。一方のジョンソンは2014年秋に伝記『チャーチル・ファクター』を出版。ベストセラーとなった(日本でも今年3月、邦訳版がプレジデント社から出版されている)。

さて、5月9日の演説で、ジョンソンはEUがいかに非民主的かを話したものの、チャーチルには触れなかった。しかし、演説後、記者にチャーチルと欧州の関係について聞かれ、ジョンソンは、欧州統合への動きが域内に平和をもたらしたことは認めながらも、「チャーチルはこの動きの中に入ろうとは思っていなかった」と述べた。

ジョンソンが書いた『チャーチル・ファクター』の第20章「ヨーロッパ合衆国構想」に詳しい説明がある。

チャーチルは親欧州派、欧州懐疑派の「両方から担ぎ出される」人物だ。どちらにもとれる発言がある。

チャーチルが欧州連合のビジョンをはっきりと出したのは1930年の米国旅行の後だ。

「国境や関税のない単一市場が経済成長に貢献していることを見て衝撃を受けた」