介護施設に入りたがらない老親の「正当な理由」
なお、Fさんのような在宅ケア専門のケアマネージャーは利用者に施設入所を勧めることはほとんどないそうです。当然ですが、在宅でのケアの充実を第一に考えているからです。ただ、認知症による徘徊の度が過ぎた方がいる家族には施設入所を勧めることがあるそうです。
「行方不明になってしまう方がいるんです。最近は徘徊の果てにクルマや電車にひかれて亡くなるというニュースが多いですよね。冬の寒い時期に家に帰れなくなったら凍死の危険もある。命にかかわることですから、外出できない環境にある施設の入所を勧めます」
緊急避難的な入所ですから、この際も強引に連れていくケースが多くなります。しかし、このような入所は家族に罪悪感を与え、心の傷になることがある。できることなら説得し、本人がある程度納得したうえで入所する方がベターです。
そのためには、どうしたらいいのでしょうか。
「拒絶する要因のひとつに、施設がどんなところで、どのような扱いを受けるのかわからない不安があります。これを取り除くには、施設での介護を体験し、慣れてもらうことだと思います」
デイサービス(通所介護)やショートステイ(短期入所生活介護)を利用する機会を作り、その利用体験から施設に対する抵抗感を少なくしていくことがひとつの方法として考えられます。
ただ、実際にはデイサービスでさえ「行きたくない」と拒絶する人は少なくありません。そこを何とか説得して行ってもらっても拒絶感から「あんなところは2度と行かない」という人もいます。これでは逆効果です。
しかし、ここで引き下がったら施設に納得したうえで入所してもらうことはできません。強引に入所させるという悲劇を避けるためには、時間をかけて粘り強く話をして、介護施設というところを受け入れてもらうしかありません。
この時、大事なのは家族サイドの都合を語らないことだそうです。
「この日は仕事があって面倒見られないから、デイサービスに行ってもらうよ」
「疲れているから、たまにはショートステイに行って楽をさせて」
といった語りかけです。
これではまるで要介護者は家族に迷惑をかけている厄介者。プライドが傷つけられ、ますます意固地になって拒絶してしまうわけです。