なぜ「介護業界には独禁法が届かない」のか?

前回は、介護保険によるサービスを担う人たちが公的機関の職員か、民間企業の社員かが判別しいくい点に関して指摘し、また「地域包括支援センター」(以下、支援センター)のあり方の問題点についても触れました。

今回は、その支援センターに関して掘り下げてみたいと思います。

例えば親の介護が必要になったとき、家族が最初にお世話になるのが各地域ごとに設けられた支援センター。大半の支援センターを運営しているのは社会福祉法人という民間の事業者です。管轄市区町村の審査を受け、「この法人なら大丈夫」というお墨つきを得たところが支援センターの業務を委託されることになります。

前回も触れたように、社会福祉法人は利益を目的としてはならない公益法人ですし(その代わり、自治体からの補助や税制の優遇措置が受けられる)、市区町村の委託を受けているのですから、民間の事業者とはいえ公的な機関といっていいでしょう。

中立公正を旨として地域住民のために誠実に仕事をしてくれる。そう思えますが、ケアマネージャーのTさんは言うのです。

「中立公正を守っているところは少ないですし、中にはあからさまに儲けに走っている地域包括支援センターだってあります」

後述するように、支援センター自身がサービス事業を併設しているケースが多く、そのため支援センターを運営する社会福祉法人に出入りしているスタッフや業者は、売り上げに貢献しないと冷遇されることもあるといいます。Tさんは苦笑しながらこう断言するのです。

「結局、独占禁止法が及ばない業界なのです」

独禁法が及ばない……。いったい、どういうことなのか。Tさんに詳しく説明してもらいました。その驚くべき概要は次のようなものです。

どんな業種の会社でも、数ある同業者のなかから自社の製品やサービスをお客さんに選んでもらうには、それ相応の努力をします。製品の性能を高める、技術力を磨く、サービスの質をよくする、というように。

しかし、介護業界は支援センターを運営する社会福祉法人が“特権的立場”によって優先的に利用者を得て、その他の事業者は努力をしても利用者を増やすことにつながらない、という構造があるというのです。