なぜ、老父はデイサービスへ行くのを全力で拒否したか
介護サービスのひとつに、デイサービスがあります。要介護者が老人福祉施設などに行き、食事や入浴、レクリエーション、機能訓練などをして1日を過ごすというものです。
父が要介護になった時、最初に利用しようとしたのが、そのデイサービスでした。利用したくなった理由はふたつ。ひとつは、私が仕事(取材)で外出しなければならない日があり、寝たきりで何もできない父を1人にしておけなかったこと。
そしてもうひとつは、入浴サービスを利用したかったことです。寝たきりになった当初、父は体を支えれば立ち上がることはできましたが、単独で風呂に入るのは困難でした。1日に1回、お湯で湿らせたタオルで体を拭いていましたが、それでは気分は晴れないはずです。自宅まできてくれる訪問入浴サービスは利用する予定でしたが、すぐにでもお風呂に入れてあげたいという思いがあったのです。
それをケアマネージャーに相談したところ、体験デイサービスを勧められました。1回体験してみて気に入ったら通う、嫌だったらやめるという案です。それを利用すれば、とりあえず私が不在になるその日は乗り切れるということで、お願いすることにしました。
父に体験デイサービスのことを伝えると無言のまま。気が進まないのは明らかでした。やれやれと思いながらも、私は優しい口調で言いました。
「その日はオレが朝から出かけるから仕方がないんだよ。久しぶりにお風呂にも入れるしさ。サッパリするよ」
父はぼそっと「分かった」と答えました。ほっとしました。まずは、第一関門突破です。
次はデイサービスに行くための準備。服装から取り掛かりました。多くの老人のいる場所へ行くのですから、パジャマでは恥ずかしいのではないかと考え、スウェットの上下を買い、着てもらうことにしました。11月の半ばに差しかかる頃で玄関から送迎車までの移動時が寒くないようダウンコートも用意しました。
また、デイサービスの施設から持参して欲しいといわれた着替えの下着、紙パンツ、タオル、コップと歯ブラシなど一式も父の名前を記入したうえでバッグに詰めました。
そして当日。デイサービスの送迎車が来るのは朝9時だったのですが、私は7時には家を出なければならず、その時の世話は妻が会社への出勤時間を遅らせてしてくれることになりました。ケアマネージャーも来てくれるとのことで、私は早朝、父にスウェットの上下を着せて仕事に出かけました。他に気になることがあると仕事には集中できないものですが、その時は「後は介護のプロがうまくやってくれるだろう」と少し気が楽になっていました。
父を「1人にする」準備は完璧でした。
ところが父は、デイサービスに行かなかったのです。仕事が一段落した午後、朝の様子を聞こうと妻にメールをすると、「直前になって行きたくないと言い出して大変だった」との返信。絵文字も何もありませんでした。
結局、妻はその日、仕事を休んだそうです。帰宅して話を聞くと、送迎車が来る9時少し前、「体調が悪くなった。行くのは無理だ」と訴えたとのこと。来訪したケアマネージャーにそれを伝えると、よくあることらしく説得を試みたそうですが、父は頑としてベッドから動こうとせず、最後は目に涙を浮かべていたので諦めたということでした。