「自分でやったほうが早いから」と、仕事を抱え込んでいる人へ。ネスレの全従業員33万人中の0.01%しかいない役員に上り詰めた、ネスレ日本・高岡社長に、上司のあり方を聞きました。

部下に任せる「作業」と上司の「仕事」の違いとは

「部下に任せる方法」を考える前提として、まずは「作業」と「仕事」を区別しておかなければなりません。

ネスレ日本社長・CEO 高岡浩三氏

「作業」とは、すでに決まっている手順や事務処理を繰り返すこと。パワーポイントでプレゼンや会議の資料を作る、単純なメールや電話のやり取りをする、あるいは人事なら毎年の定期採用の準備をするとか、そういったことはすべて作業であって、新しい発想や特別な能力は必要としません。どんどん部下に任せていけばいい。

これに対して「仕事」とは、正解のないものにチャレンジしながら、これまでに存在しなかった新しい価値を創り出すこと。上司やリーダーという立場にある者に求められるのは、本来、この部分なんです。新しい価値を誰のために創り出すかといえば、お客さんです。私の原点はマーケティングですが、どんな仕事にも“顧客”はいるはずです。人事部なら社員や採用する学生、サプライチェーンなら運送会社や倉庫業者というふうに。

そのお客さんにとっての問題を解決すること――いえ、もっと大切で、それゆえに難しいのは、お客さんも気づいていない問題を発見する能力でしょうね。そのために考え抜き、解決策を提案するのが、リーダーの「仕事」だと私は考えています。

言い換えれば、イノベーションとリノベーションの違いということになります。わかりやすいたとえ話をしましょう。部屋が暑いと感じたとき、これを解決したイノベーションは扇風機とエアコンしか、今のところありません。電気が発明されたことによって、その2つの方法が可能になったわけです。それ以降の、タイマーを付けたとか、風力の強弱を調整するとかいったことは、リノベーションにすぎない。日本の企業で今言われているイノベーションの大半は、実はリノベーションであって、これは新たな価値を生み出したことにはならない。そこを混同してしまっていることが、日本の企業が世界的な競争に勝てなくなった根本的な問題だと私は思います。