勤務中に「考える時間」がどれだけあるか

とはいえ、われわれネスレ日本も以前は他の多くの企業と同じように、「作業」と「仕事」を混同し、イノベーションとリノベーションの区別が付かないところもありました。いわばホワイトカラーの生産性に対する意識が低かった。私はそこを改めたいと考え、組織のあり方や仕事のやり方を変えようとさまざまな取り組みをしてきました。

ネスレ日本 高岡式 上手に任せる3つの極意

たとえば、昨年は3カ月にわたって、全社員(約2500人)の仕事や作業にかける時間を調査しました。資料作り、電話やメール、営業車の運転時間など、何にどれくらい時間を使っているか、1日のうちに「考える時間」がどれだけあったかを1週間分自己申告してもらったんです。これは社員の意識を変えるのに大きく役立ったと思います。会議は30分以内、会議資料は3枚まで。報告事項は口頭で的確に伝えるのが基本だと、いつも言っています。

「作業」を減らすことによって、夜7時以降の残業の原則禁止が可能になりました。有休も必ず取らせる。それができなければ上司に周知徹底させることにすると、年間の残業時間が100時間から50時間に半減しました。

これにより、社員の「作業」は減っても、「仕事」が減ったわけではありません。管理職はすでに答えがわかっていても、部下を育てるために課題を与えていきます。そのために高い給料を得ているわけですから。弊社では、管理職の査定に「部下による管理職の360度評価」も含まれます。

このように、ネスレ日本では、上司の「仕事」が多く、「作業」を抱え込んでいる時間はありません。どうすれば「作業」を減らせるか、1人ひとりが常に考えて行動する企業でありたいと思っています。

部下に任せ、彼らを育てるために最も重要なのは、「考える時間」を増やすことです。そのためには、「作業」を減らさなくてはなりません。まずは弊社が実施したように、1日をどのように使っているか、洗い出してみることが有効でしょう。

ネスレ日本社長・CEO 高岡浩三(たかおか・こうぞう)
1983年、神戸大学卒業後、同社入社。「キットカット」を受験生応援商品として定着させ、2005年にネスレコンフェクショナリー社長に就任。10年より現職。オフィス向けコーヒーサービス「ネスカフェ アンバサダー」をはじめとした新しいビジネスモデルを成功させている。
(松本 創=構成 森本真哉=撮影)
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