クロージングの殺し文句
渋谷109店は約400アイテムを揃えており、商品の入れ替わりも早い。それでも、石田さんは商品データをすべて頭に入れているし、おすすめコーディネートのパターンも把握している。
「お客さまがどんなファッションにしたいのかがわかったら、自分からサンプルを持っていって、試してもらうんです。なるべく多くの服を見てもらいます。その中から1着くらいは、お気に入りが見つかるはずですから」
クロージングに向けて顧客の背中を押す“殺し文句”も用意している。
「お客さまの特徴に合わせて、服のメリットを強調します。肌のきれいなお客さまだったら露出の多い服を合わせて、『肌をもっと見せちゃいましょうよ』といってみます。背の高いお客さまだったら丈の長い服を見せて、『小柄な方には難しいですが、お客さまだからこそ着こなせると思います』とおすすめします」
さらに、ついで買いを誘う、こんな必殺テクニックも繰り出す。
「2点以上お買い上げで10%引きのキャンペーンをしているとしましょうか。黒系がお好みのお客さまだったら、1点目は黒系の服を、そして2点目は明るめの別の系統の服をあえて提案します。そして、『どうですか。意外とお似合いじゃないですか? このチャンスに、思い切ってチャレンジしてみませんか?』といった具合に切り出すんです」
初めは1着だけ買いにきたお客さまも、いっぱい服を見せてもらうと、いくつかお気に入りの服が出てくるもの。悩んでいるときに、さりげなく2着以上は10%引きセールスのことを伝える。そうすると「せっかくだから」という気になり、実際の購買につながる
石田さんの販売成績がよい理由の一つは買い上げ点数が多いことである。客単価は全店で平均約8000円だが、石田さんはそれを大きく上回るという。その秘訣は、プレゼン能力の高さにあるといえるだろう。
正社員の次は、チーフ、そして店長というステップが待っている。石田さんは、「うちの店長は、お客さまのことをよく覚えていて、お得意さまがすごく多いんです。私も早くそうなりたい。今の目標ですね」と、あくまでも上昇志向である。
▼キリンのように首を長くして店内を観察
売り上げを伸ばすためには、1人でも多くのお客さまについて、そのお客さまのニーズを引き出すことが大切。だからいつもキョロキョロ。見やすいようにハイヒールを履く工夫も行う。
▼お客の長所を褒めながら背中を押す
たとえば「露出が多くて、ちょっと私には似合いそうにないかも」と思っているお客さまに対して、「肌がおきれいですから、もっと見せてあげたらどうでしょう」と背中を押す。
1992年、東京都生まれ。2013年5月、セシルマクビー渋谷109店にアルバイトとして入店。14年6月、正社員に採用される。