個人消費に明るい兆しが見えてくるようになった。しかし、多くの会社ではどうしたら顧客ニーズをつかみ、売り上げにつなげられるか悩んでいる。その解決策を若手の凄腕営業マン・販売員に学ぶ。
日本一の売り上げを誇る靴専門店チェーンの「エービーシー・マート(ABCマート)」。幸野隆文さんは10年4月に入社後、2年目には年間約1億2000万円を売り上げて、約5000人いる販売員のトップに立った。個人販売成績は3年目もトップ。その手腕を買われ、14年3月には新宿本店のストアー・マネージャーに就任した。同社の1品平均単価は8000円前後だというから、年間1億2000万円を売り上げるには、1時間に7足強の靴を売らなければならない。
「実は、09年4月に入社する予定だったのですが、大学で留年して、入社が1年遅れてしまいました。その間、会社の厚意でアルバイトをすることになったんです」
アルバイト販売員として配属されたのは、新宿本店に近い新宿エリアの店舗。接客はほぼ未経験だったが、最初の1カ月間は在庫の管理も兼務して、靴のブランドやサイズといった商品データを頭に叩き込み、先輩販売員に教わりながら、接客のテクニックを身につけた。休日には、家電量販店で接客を受けたりして研究を重ね、セールスのコツをつかんだ。そして、3カ月目に時間当たりの売上高でアルバイト全国第1位に輝く。
幸野さんの得意技は、ほんの少しの会話で顧客を買う気にさせてしまう「ピンポイント・トーク」。顧客に片っ端から声をかける販売員もよくいるが、そうした“数打てば当たる”式の接客はしない。ミサイルのようにターゲットに百発百中で命中させる狙い撃ちの営業トークなのだ。
「まず、お客さまをそれとなく観察します。年齢はいくつくらいか、どんな仕事をしているか、履いている靴や着ている服はどうかなどから、ライフスタイルをイメージするんです。声をかけるタイミングは、商品を手に取ったときですね。探している靴の当たりをつけるわけです」
たとえば、平日午後3時くらいに、スーツを着たビジネスマンふうの男性が来店したとする。彼は顔や腕が浅黒く日焼けしていて、履いている靴の底がかなり磨り減っている。ビジネスシューズを見始めたら、「こんな時間なら、外回りの営業マンかな。そろそろ替えの靴が欲しいのかも」と想定できる。それからニーズを突いた商品説明をするのだ。