選択肢を絞り込むセールストーク

また、幸野さんのセールストークには無駄がない。ランニングシューズを探している顧客には、「マラソン用ですか、ジョギング用ですか、それともジムで使う室内用ですか」といった具合に用途を聞き出し、「それなら、こちらが向いています。なぜかといいますと……」と理由をてきぱきと伝えていく。

「ニューバランスの27センチメートルを履いてみたい」という顧客には、「ニューバランスは大きめにできているので、26.5センチメートルからお試しになりませんか」と提案する。的確に選択肢を絞り込んでいくので、スムーズに購買につながっていく。顧客が靴を試着して、履き心地に納得してくれれば、クロージングはほぼ決まり。

「機能性だけではなく、ファッション性も、靴を選ぶ基準になりますよね。ただし、ファッションに正しい答えはありません。お客さまが迷っている場合、話のやり取りの中から、本当はどの靴が好みなのかを察知し、納得できそうな言葉で、背中を押してあげるわけです」

たとえば、顧客が明るい色の靴と、落ち着いた色の靴を比べていて、落ち着いた色が気に入っているとする。その場合、「明るい色は目立つし、夏場にはいいと思います。でも秋以降はどうでしょう。落ち着いた色のほうだと、いろいろな服と相性がよく、どんな季節でもお使いいただけますよ」といった具合に、メリットやデメリットをアピールする。

靴の関連グッズのついで買いを誘うのも、売り上げをアップさせる手だ。スエードブーツを買った顧客には、「防水スプレーも一緒にいかがですか。ほこりがつきにくくなって、靴が長持ちしますよ」とすすめる。

塵も積もれば山となるではないが、1人のお客さまに1つでも多くの品物を買ってもらうことで営業成績はアップしていく。靴の場合、そのついで買いの代表的な品物が防水スプレーで、雨水がしみこまないだけではなく、汚れがつきにくくなるというメリットを伝えて購買意欲を引き出す。

反対に、買うのか買わないのか判然としない顧客は深追いしない。「でも、『ちょっと見ているだけだから』とおっしゃるお客さまにも、『何かあれば、ご遠慮なくお声がけください』と申し上げて、話しかけやすい雰囲気をつくっておくんです。僕自身は“マーキング”と呼んでいるんですが、そうすると、お客さまのほうから、僕に質問してくれることもあるんですよ」と幸野さんはいう。